迷子の魔人 2020-11-10 17:35:38 |
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(立場さえなければ、さすがに怒っただろう。正直、何を言っているんだ、このお方は、と思っては、その感情を表面に出さぬよう必死で努め。商取引でも信用した相手とは文書を取り交わすものであり、重要な事柄をこれまで言葉でも伝えてこなかったのに、文字としても残したくないとは、最早、自己の責任がはっきりしてしまう事態からひたすら逃れようとしているだけにしか見えず。
表向きは柔和な笑顔のまま、何を言おうかと言葉を探しかけると、不意に第二王子の部下に当たる兵士長が挙手し、次は誰の反応も待たずに国王を見つつ、流れるように爽やかな語調で『それでは、機密事項についてはこちらの会議室で管理致しましょう』と言い切って。それから、ちらりと自身にも視線を向けてきたかと思えば、すぐにまた真摯で誠実そうな眼差しで国王を見つめ『それなら、漏洩の心配もないでしょう。こちらに鍵付きの棚か金庫を置いて管理し、室外への持ち出しは禁じます。その上で問い合わせがあった場合は常駐の兵士を介して照会できるように致しますと、漏洩は元より、口伝えのみによる情報の歪みにも対応できるでしょう』と述べて。
兵士長はそれなりに味方をしてくれているようだと思えれば、内心少し安堵し。というか、本当、そんなに質問状を嫌がる理由が怠惰以外にあるとすれば、それが何かは今一つ分からず。むしろ、こっちが聞きたい!……とさえ思うが、明らかな地雷に飛び込む気はなく。文書を残すことが認められないのなら、理屈上、勉強会をやってもノートを取ることも許されないはず。だとしたら、個人間で学習度がまちまちになるだけではなく、話し合った内容もその先から曖昧になることが予見され、いよいよ研修の意味が薄くなってしまうはずで。
さて、シャフィーク兵士長の提言に国王はどのような反応を示すことかと関心を持つと、国王が答えを返すより先に、次は令嬢の部下の兵士長が挙手もせずに、重々しく口を開いて、ゆっくりと『……賛成ですな。確か倉庫に、今は使っていない古金庫がありましたな。あれを持ってきて使いましょう』と言い。加えて、契約者と魔人、それぞれの顔を迫力のある渋い瞳で順に見ながら『時間は一晩、それぞれのリーダーは今夜の内にバディの魔人殿と話し合われては如何か。結果、メンバーで共有できそうなこと、及び解決しなかった疑問をまとめて頂きたい。私の方ではこの夜で金庫と投書用の箱をご用意いたそう。明日一日の内に、まとめた内容の投函を願う』と言ってのけ。
強面の兵士長の発言を聞き終えれば、それはそれで"…今晩?明日中!?"とも思ってしまい。いや、平常であれば、そのスピード感も分かるのだが、皆、俺とアルムは元々離れた場所にある病院から、急に呼び出されてここに来ているって分かってないんじゃ!?と疑念を持ち。しかし、質問状を提案したのは自分であり、それが無下に却下されそうになったところで二人の兵士長が庇ってくれたわけで。ここでぶーぶー言うのは、心象も良くないだろう。一人納得したように黙っていると、強面の兵士長は少し視線を高くし、ざっと全体を見ながら『異論のある者は?』と尋ね、その後に国王へと瞳を戻し)
「以上ということで宜しいですかな?」
(/対してレナトゥス君は、厚意でアジトに太陽[シャムス]のメインメンバーそれぞれの部屋を用意してあげるくらい優しくて、周囲への思いやりがあるので、胃が痛くなっちゃいそうですね←)
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