つれづれ 2020-10-20 07:58:23 ID:5f5e6ea0e |
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【hpmi/とある病室、小説家の親友を持つ青年の独り言/捏造過多】
「…っんぶ…!…うぁ、…寝ちまってた、か…?」
心地よい微睡みに身体を委ねれば、紙の束に顔をぶつけてむくりと身を起こして。まだはっきりしない視界でベッドをリクライニングしたまま、数十枚束になった原稿用紙を手に持っている事を確認する。
数日前、学生時代からの親友が持参してくれた物語だ。消毒臭い院内での生活、緩やかに、しかし確実に機能しなくなっていく身体…そんな理不尽で残酷な現実から一時、自分の意識を別世界へ連れ去ってくれ、消耗した心を癒してくれる。
ー彼の物語は、彼は、自分にとって大きな励みだった。大事な原稿を一枚もベッド下へ落として無い事に小さく安堵の息吐けば、見慣れた筆跡で綴られた幻想を愛しむようになぞり、自然と顔を綻ばせて。
最近は執筆に加えラップバトルで益々知名度が上がり、彼も多忙で以前より会えなくなった。少し寂しくは有るが、先の短い自分だ。遠くない将来、必ず来る別れに覚悟はしてある。…心残りなら数え切れない程有るが、自分を腐らせずにここまで生かしてくれた、ただ一人の親友の行く先が明るくあれと願ってやまない。
「…あいつ、甘えんのへったくそだしなぁ。」
そこが可愛らしい所でも有るのだが。他者を頼る事も心を開く事も不調法な彼を、無理矢理でも日の下へ引っ張っていく誰かが…彼を独りにしない誰かが、きっと現れますように、と。
「あ。……そうだった。こんな心配要らねぇんだった。」
ぱっと頭を過った彼と並び歩く二人の人物に、自分の心配事は徒労だったと気付けば、じわりともたげる暗い感情を深い溜息で掻き消して。どうにも自分は聖人には成れないらしい。
「…一眠りするか、」
動かしづらくなってきた手で原稿を揃え、サイドテーブルへそっと置けば、手元のリモコンでゆっくりリクライニングを倒して目を閉じた。
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