極彩の魔女 2020-09-18 15:38:35 |
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>194 リヒャルト様
……私、は……
(深い溜め息一つであれば、それは違うと性懲りも無く食い下がる事が出来ただろう。けれど語られる不可解な理が、その声が纏うあまりに昏く澱んだ香りがひどく喉を竦ませて。高鳴る鼓動はじわりじわりと不穏な胸騒ぎへ変わり、高揚は奇妙に冷えて、自分の立っている場所を確かめるように伏せたままの視線を揺らす。己を光の当たる場所へ連れ出してくれた皇子が何故、こんなにも深い闇の匂いに包まれているのか。"私"は──"姫"とは一体何なのか。続く言葉を見つけられずに立ち尽くす中、ぽつりと聞こえた呟きに両の耳を震わせて「 私は……犬でも狼でも、仰せのままに成ってみせます。たとえ怪物であろうと、殿下がそう望まれるなら 」愚直に訴えるのは嘘偽りのない本音。しかし切々とした声音には忠誠心ばかりでなく、目の前の彼という唯一無二の存在に縋るような響きも含まれており。さらさらと揺れる金糸の髪をさながら闇に垂れる蜘蛛糸の如く凝望し、無意識に一歩踏み出して「 ──私が忠誠を誓う"皇子"はリヒャルト殿下、貴方様ただ一人です 」貴方しか居ない世界に序列などはなから存在しないと、不敬も構わず口にする。睦言にも似た甘やかな台詞は静謐な室内にふわりと消え、後に残る空虚な静けさすら空恐ろしく感じては、顔を背け続ける彼にそっと獣じみた手を伸ばして)
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