霧靄に包まれた朝露の滴、冴え冴えとした満月の夜、暖炉で最後に爆ぜた火花。そうした美しいものの側で産まれた赤子は、精霊から『祝福』を授けられた。
──夜闇に煌めく『瞳』と、人の身に余る『魔力』を。
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(なぜ、ナゼ、何故! 俺たちは同じ筈だ。人間と共にあることなんて、できるはずがない。グルグルと目眩と吐き気と、頭痛がした。どうして誰も分かってくれない。俺たちはどうやったって孤独で、惨めで、虚しい生き物で、人間を下して上に立つことも容易い魔法の力だってあるのに! 付き合いきれないと同胞が離れていく度に、男の心は悲鳴を上げた。小さな塵屑でも積み上がれば山となるように、それは男の心を真っ黒に染め上げていく。もうどのくらい飲んだのかわからない酒瓶を手から転がして、どこかの汚い路地裏に寝転がった。ぶるりと身体が冷えるような心地がする。寒さに耐えかねて上着を抱き寄せるが、それは身の内から来る冷たさのようで効果は薄い。胸の中は怒りと疑心と侮蔑で燃え盛るような気持ちなのに、身体はすっと冷えて、自分が自分ではなくなるような心地がする。ぱきん、ぱきんと耳の奥で何かが割れるような音がする。なんだか、──なんだか男には何もかもどうでも良くなった。体を動かすことも億劫で、視線を彷徨わせるぐらいしか気力がない。ぱきん。転がった酒瓶を追いかける目が、程なくして自分自身の異常を捉えた。黒い濁った大きな鱗が手を覆っている。ぱきん。と、音が鳴るたびに鱗は広がって男を包み隠そうとする。冷たい、寒い、熱い。けど、男にはどうでもよかった。最後に男は自分の足元へ視線を彷徨わせ、「あー、靴……汚れてんなァ、」それが心底惜しいとでもいうように目を閉じた。……ぱきん。)
斯くして『大きな黒い獣』は出来上がった。
>合図までお静かに。