弦 2020-03-28 01:52:50 |
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("何だと思ってる?"俺の宝物"……。好きだ愛してるは言えるけれど、こう気障な文句となると喉の奥で詰まってしまう。結局答えられたのは感情の裏の言い訳だけで。「いや…人混みとか苦手かなって。ホラ、遠夜綺麗だし、絡まれることもあるかもしんないじゃん?」歯切れの悪い口調は誤魔化しを含んでいる故だろうか。自分と並ぶことで付きまとう偏見の目はやはりある。経験則からなんて大層なことを言うつもりはないが、懸念をそのまま告げてしまうことなんて出来はしない。自分はともかく相手にそんな思いなどして欲しくはない。「……ありがと」情熱的とも取れる文句に頬を緩める、その表情は本当だ。けれども自身の行く先が地獄の底なら相手の手は掴まないのだろうな、と何となく。未だに素敵な人を独り占めしてしまっている幸福感に頭が追い付かない反面、自分で良いのかと言う不安がある。相手の問題ではなく自身の問題だ、だからこそ返事は感謝の一言だけ。これでこの話はお仕舞いとばかりに目を閉じれば、身勝手な思惑も見逃してもらえるだろうか。何だかもたつくような足を動かして、エスコートされるままにソファに座り、テーブルの上にぱらりと資料を広げる。もちろんそれは仕事の堅苦しいものではなく、近所の高校に通う生徒がデザインしたらしき色とりどりのパンフレットだ。屋台の案内やフェスの時刻が印字されているそれは明らかにお手製、プロのものには遠く及ばないがまたそれが味を出している。「ん、わかった、一緒に行こ。……あーでも、待ち合わせも憧れるわ。遠夜はどっちがいい?」笑みに見惚れたことは言わないままだが、結局のところ緩む頬と和らげた目が全てを物語るのだろう)
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