匿名の刑事 2020-03-25 19:54:27 |
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( 彼の煮え切らない反応は少々予想外だった。名案を口にした筈だったのだが、やはり大人からしてみれば考えが浅はかだっただろうか。しかし人間誰しも潜在意識の中に生存本能があり、自分も幼馴染も他の参加者達も含め、無論警察官を名乗る彼にだってソレは平等に備わっているものだと思っていた。故に手段を選んでいる猶予は少なくとも自分にはないのだが、あくまで冷静沈着な彼と想像以上に曖昧な返事に僅かな迷いが生じる。「確かに一度のハグで脱出が出来る可能性は低いかもしれませんが……物は試しです、ケイジさん」それでも尽くせる手段は片っ端から試すべきだと豪語。こちらからという彼の指示に従い、ゆっくりと手を広げる。「では、失礼します──」恐らくこんなにも不器用で不格好な抱擁は双方にとって初めてだろう、軽く会釈した後相手の広い胸板にそうっと飛び込むと、慣れない仕草で腕を回し抱き着いて。妙な緊張感の中無言で硬直したまま、都合良く扉の開閉音が聴こえてこないかとしばらく待機するが、それどころか先程の端末が震える気配すらない。ああ、これはやはり安直過ぎたかと秒数が経つごとに落胆するも、「……ダメ、みたいですね。仲の良さそうなことをしても意味はない、と言ったところでしょうか。すみません、無駄足だったみたいで」頭上にある相手の表情は読めず、申し訳なさそうにポツリと一言呟きを零す。様子をうかがいつつ体を離すべく動いて )
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