ジェイド 2020-03-23 23:02:04 |
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(彼にしては珍しい、この短時間関わっただけでそう思わせるほどの一声に、俯けていた顔をおずおずと上げる。様々な感情が入り乱れ、心は散り散り、気持ちは落ち着かず無意識に瞳は不安定に揺れており。一言、一言大切に紡がれる音はあたたかな想いで溢れている。幼く、臆病で然し純粋であった少女の頃に聞けていれば…または彼の様な味方が誰か一人でもいれば…何かが変わっていたかもしれない。所詮たられば。か細く震え消えていった声音が寂しく、耳の奥に微かな余韻として残る。緊張で渇いた唇を小さく開き「……貴方の目には…そう見える?私は…美しい?強くて…、素敵なレディ、かしら」なんとか小さな笑みをかたどったまま最後まで言い切って。闇を抱えているのは自分だけではない、天を仰ぐ青年の表情はこちらからは窺い知れず、知っているのは名前だけの寂しげな囚われ者。そんな囚われ者こそ想像もできぬほど抗えない枷を抱え生きているに違いない。吐息と共に空気へ消える様に落とされた言葉が偶然届いてしまったのは幸か不幸か。"綺麗だと、美しいと貴方が言ってくれた私を憶えていて"…だなんて、何故告げることができるだろう。目を閉じ、聞こえぬフリをしたのは優しさからではない、踏み込むことに怯え、向き合うことから逃げたからだ。そうやって嫌いな自分が積み重なっていく。…だが、今日踏み出さねばきっとこの先も後悔するだろう。そんな予感があった。柔らかな色合いの布に包まれたジニアの花が、月の光を受けながら自分に勇気を与えるように淡く輝いている。「言葉って難しいわね…。でも、これから先ジニアの花を見れば貴方のことを憶い出すわ」小さな勇気を振り絞り、憶えていて、と言えない希望を憶い出す、に変えて彼へ贈ろう。一輪の花をそっと持ち上げ、記憶に刻むよう花びらに誓いの口付けを落として。優しい拒否と共に向けられた寂寞とした背はそのまま消えてしまいそうなほどの儚さを孕んでいる。呼び止める為に持ち上げた手は、結局何も掴むことが出来ず中途半端に宙を彷徨うだけ。どうすれば引き留められるだろう、逡巡している間に彼の方からタイミングを狙ったように声を掛けられる。「…っ、勿論よ!私も貴方とお話出来て楽しかったわ。ジョネルさんさえ良ければ明日も…来てくださらない?この部屋以外のこととか…貴方のお友達のこととか…色々紹介してほしいわ」勢いこんでしまったため、僅かに声音が上擦ってしまった。その羞恥に頬を薄く染めながらも、懸命に自分の思いを口にして。もし了承を得られたならば、今度こそは笑顔で見送ることが出来るだろう)
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