ジェイド 2020-03-23 23:02:04 |
通報 |
見方の違いかもしれないわね。私は…逃げ出す勇気がなかったのよ。でも、それを言い訳に自分から逃げたわ。…って、何を言ってるのかしらね。
(使命、宿命、呪い、それこそがこの屋敷に縛られている彼等の根源にあるもの。自分もまた過去の亡霊に捕らわれている。初対面の彼に普段なら吐かぬ弱音を零したのは似たなにかを感じたからだろうか。感傷に浸る権利などないのに、痛ましげに瞼を閉じ、苦いものが込み上げてくるのを無理矢理に飲み込む。彼を閉じ込めているという荘厳たる屋敷、窓の外には夥しいほどの黒薔薇が鮮やかな花弁を開き、人々を惑わすかの如く奇しの香漂わせ、壁に這う茨は風にそよりとしなっては艶かしくも誘う女の手のようで、幾重にも生き物を絡めとり離さんとする…まさに魔性そのもの。視界の端で白くぼんやりと浮かび上がる彼の手が窓を伝う、耳を打つのは哀しげな笑息。行動を擬えるようにそっと伸ばした指先をガラス窓に当てがい、人差し指を下へ滑らせて薔薇に誘われるように花の形を指先で辿って。「…何故かしら。何故こんなに……。……っ」泣きたくなってしまうのか…その言葉を続けるにはあまりにも彼に申し訳がたたず、俯き溢れそうになるものをマナー違反だと知りながらも袖口で押さえて。救いのないことこそが救いだと、そう言う彼が自分には救いを示してくれるというのか。こんな奇々怪々な屋敷の中、ちっぽけな小娘に…。あまりにも哀れで狂おしいほどに労しく愛おしい。更には見ず知らずの己の誕生日を純粋に祝ってくれようとしている。「…有難う、ジョネルさん。本当に…本当に今日は特別な誕生日だわ。」差し出されたジニアの花を恭しく受け取り、鮮やかで可憐な花弁に目許を和らげ、綻ぶような笑みと共に感謝の言葉を胸にわき出る思いのままに伝える。"おめでとう、エマ。私のたった一人の大切な姉さん"胸中で明るい陽だまりの下、満面の笑顔で青空の下を駆けていく小さな幼子へ手向けて。一輪の可憐な花をハンカチーフに包み、サイドテーブルに大切に置いては彼の方に両手を伸ばし、下から掬い上げるようにして握って。「大事にさせて頂くわ。お礼を今度させていただきたいのだけれど、ジョネルさんは何がお好きかしら?」尋ねる際、首を傾げた反動で肩から緩やかに巻いた髪が一房垂れる。今はその色を見ても不思議と気持ちは穏やか。きっと彼と話したからだろう。誕生日プレゼントのお返しとかこつけ、何か贈れるものはないだろうかと思案して)
トピック検索 |