ジェイド 2020-03-23 23:02:04 |
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…ジョネルさん、そう言う貴方もそうなのではなくて?
(向けられた人差し指を一瞥し、そのまま紅茶の上へ滑り落として。話の最中、幾分温くなった液体を飲み下し、白い陶器を鑑賞したまま送られた視線には返さず。努力を知らぬものが頑張った、頑張らなくて良い、とすんなり言葉に出来るはずない。何せ、神に愛された一握りの幸福な人種は頑張ることさえ知らぬのだから。空になったカップを音を立てずソーサーへ戻し「とても美味しかったわ。ここの従者たちは優秀ね」感想と共に称賛の言葉を添えて。気安く、朗らかな調子で語り掛けてくれるものの内容はそんな穏やかなものではない。理性を持ち、話せる彼は希少なのだろう…それが窺い知れる。窓の外はただ何処までも闇夜が覆い、暗い奈落の底に通ずるのではないか。そんな感想を抱かせるほど不気味極まりない。「そう…。どちらが良いのかしらね。食べられるのならばいっそう、話の通じないモノに食べられてしまった方がいいかもしれないわ。言葉を交わすことで情が生まれ、そこに私たちは希望を見出してしまう」彼の話が途切れた瞬間、ポツリと溢れたのは心の中にいるもう一人の自分の言葉。憂いに潤むグリーントルマリンを想起させる瞳を静かに瞬かせ、ゆっくりと視線を合わせる。姿形は違えども言葉を交わし、気遣う姿勢を見せられると、彼だけは他の住人と違い己を食べずに助けてくれるのではないか…そんな淡い期待が胸に滲むのだ。それとも期待を裏切られたヒトの絶望や悲哀さえ、彼らにとっては甘美なアクセントになるのかもしれない。きっと突き詰めて考えるべきではないのだ、特に今は。ふっと気持ちを鎮めるように一息吐くと、組んだ両手を解いてソファーから立ち上がり、惹かれるように窓辺へ歩み寄る。「今日はね…とても特別な日よ。"ワタシ"が生まれた日だもの。…貴方達には誕生日ってないのかしら?」カーテンを捲り、ガラスに映る歪な自分の姿を見詰めながら、えらく食い付きのよい彼の質問に応じる。言葉の表面をなぞれば、誕生日だからこそ、この現状を受け入れられるなんて、おかしな理由だ。皮肉に歪む口許は背を向けている彼には気付かれないだろう。一度瞳を閉じ、次に開いた時には窓に映る自分の顔はいつもの穏やかで柔らかな笑顔を戻っていた。その表情で相手を振り返っては、興味を装うフリをして質問を返し)
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