ジェイド 2020-03-23 23:02:04 |
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ジョネルさんは、白鳥という鳥をご存知かしら?純白で優美な鳥なのだけど、とても優雅に水面の上を泳いでみせる反面、水面の下では必死になって水掻きしているのよ。努力は見えぬからこそ、美しいもの。
(真っ直ぐに笑顔を向けてくれる顔が自分の過去を知ればどの様に陰ってしまうのだろうか。父の様に、母の様に、仮面を貼り付けたような能面に変わってしまうのではないか。細く繊細な人差し指でハンドルの形を追いながら、ツルリと美しい陶器のカップに白鳥を思い重ね。楽しげに囀る内容は鈍い殿方を詰る様な甘さを含んでおり、言外に秘密を暴くような無粋な真似は紳士がするべきことではないと嗜めてみせ。前方から注がれる何やら怪しげな視線には気付いたが、危機感が警鐘を鳴らし、触れるべきではないと強く訴えている。一挙手一投足、見逃さぬかのような…否、もっとその奥の深淵を覗き込むかの様な視線が本能を強く揺さぶる。うまく平常心を保てているだろうか、願わくばカップを持つ手が震えていないといい。カップから離した手は再度膝の上に揃えて置き、僅かばかり重ねた手に力が入ったのは緊張の表れ。「そうね…こんな奇奇怪怪な出来事にはそうそう合わないもの。驚く方が自然だわ。私も出迎えてくれたのが貴方でなければ取り乱していたかもしれないわね」黄金色の海に沈み溶けていく塊を視線で追いながら、それとなく冷静でいられた理由を弁明するのは常人を装うとしているからか。揺れる波紋に飛び散る錆色の景色が一瞬瞳の奥にチラつき、それ以上余計な口を効かぬよう一旦閉じて。耳に届くのは大凡非現実的で理解しかねる内容、その節々で彼が立てる生活音だけが酷く現実じみて奇妙な心地に陥る。驚きに目は見開き、不安定に視線は宙を彷徨う。やがて膝の上に落ち着いた視界の端、映り込んだのは柔らかな甘いミルクたっぷりの紅茶色。"ああ…"知らず漏れた声音は歓喜か悲哀、どちらに濡れたことだろう。「……そう、そうなの…。きっと、"今日"じゃなければ夢でも見ているんだって叫んでたわ。でも、そうなのね。把握はしたわ。理解は…暫く出来そうにないけども。ゴハンと仰るなら何故…貴方はこんな話を私にして下さるの?」荒唐無稽、まさにその一言に尽きる。瞼は伏せたまま、頬に睫毛の影を落とし、小さな声量で淡々と応じ。残念ながら視線を合わせる勇気はない。きっと瞳は仄暗い光に濁っているだろうから。過去の罪を精算する時が来たのか。重ねていた手は祈る様に組まれ、ただただ判決を待つ罪人の如く、続く言葉に耳を傾け)
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