司書 2020-03-22 13:34:22 |
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>>1240 ノア
手品なんざやったのは初めてだ。
(彼女のなにか思案しているような、心情を慮っているような顔が驚きに変わる。それを見ると、胸の奥にじわりとした満足感が広がった。この司書は本当に素直だ。その上、感情がそのまま表情に出る。普段の彼女からは想像もつかない発見だった。この縁が無ければ、一生知らずにいたかもしれない。それは少し、惜しかったろうと思う。彼女の顔をもう一度撫でるように見つめる。目を瞬かせて己の手の中の銀色を凝視する反応の良さに、こちらとしても反応を楽しませてもらえるというもの──思いのほか効果的だったフォークの手品に、目を丸くする姿は見た目の若さ相応だ。その後に続いたのはため息とぼやきだったが……それも彼女の特徴(らしさ)と言えよう。肩の力が抜けるようなフッとした笑みを浮かべる。自分の手先の器用さを羨む言葉が出てくるのが、いかにも彼女らしい。冗談めいた拗ね方にまた可愛げを感じながら、フォークをテーブルの上に戻して。世の中のシステムにほとほと愛想が尽きるのは同意だが、今やったのは遠い記憶の再現レベルの簡単なものだ。別に王座をひっくり返す訳でもあるまい――軽く肩をすくめてみせる。表情にはどこかぶっきらぼうさが混じった伏し目がちな目だが、その目には不公平な人生の中で身につけたマシな生き方、足掻き、闘争心が沈んでおり、その言葉と共に最後には軽口を叩くような飄々とした口調に戻って)
――嗚呼、人生は不平等だよなぁ。器用さもまたひっくり返せねぇ才能だ。だが、この程度なら努力で埋められる。これくらいでしっぽ丸めてちゃ、生きるのはさぞお辛いだろうな。
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