淡雪に春告草【〆】

……──道真様っ！？ まさかお返事をいただけると思っていなく、嬉しい気持ちと申し訳ないという気持ちが入り交じっております。
その節では大変失礼いたしました。

今回の事で道真様は何も悪く有りませんのでこれ以上謝らないでください。一言でもいいのであの時に伝えて居れば、と今になって悔いても遅いですよね。兎に角、道真様は潔白なのですから堂々としてください。私がこのような事を言えた義理では御座いませんが。

私は！傷ついてなどおりませぬ。寧ろ、道真様に対し恩を仇で返す様な不届き、許されるとは思っておらず、何と詫びたら良いか。本当に申し訳ございません。土下座しても私の心は晴れぬと思いますが、道真様のお気持ちに涙が止まりません。私のような無礼者が……もう一度道真様と言の葉を交わしても良いのですか？（ 　止まらぬ水滴手で拭っては顔面を両手覆い隠し　 ）私も、之は賭けだと。運にお任せしようと思います。道真様の眼に届くか、否か。最初で最後の賭けにします。

やめてください……道真様。嫌、とかではありませぬが……道真様が私に焦がれていたという事実に恥ずかしくなり、勿体無いお言葉の数々に恐縮でございます。無礼者の私が……道真様を想う事は赦されぬ行為。いっその事、嫌いになって欲しいと思っていても、心は道真様を求めてしまい。この疚しい気持ちを断ち切るにはどうしたら良いでしょうか。困らせてしまってごめんなさい。不器用なのは私も同じです。業平様のように器用に生きられたらどれだけ幸せな事か。
……──道真様。私もこの懺悔が奇跡的に道真様の眼に届いたとしても、そうで無くても道真様の事を何時までも想っている事に変わりはありませぬ。あなたにはのびのびと真っ直ぐにこの世を生きて欲しい。書物に夢中になるのは結構ですが、きちんと三食摂取してください。でないと私……怒りますからね。流行病の事もそうですが、道真様がこの世の中を健康に生きてくださる。それだけで私は幸せです。業平様より、誰よりも私は道真様の事を大切に想い、健勝とご多幸をお祈り申し上げます。


追伸
毎日流行病の報せを訊き、気が気ではありませぬが……白梅は毎日元気に一日一日を噛み締めて生きております。このお返事は道真様に対する気持ちに溢れていて恥ずかしく、人目につかぬようひっそりと想いを文にしたためました。