青年 2020-02-05 08:06:34 |
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(多くの眼が多方面に渡り評論家の如く頭の先から鰭の先までを這いずるように舐めていた。薄気味の悪さと吐き気が込み上げるのは透明な檻が己のことを絶対に逃がしてはくれないと知らしめていたからか。程なくして強い盛り上がりが、確固として逃がさないと訴える密封された水槽では音が聴き取りづらい物の、どうやら己は″買われた″らしい。暫くして狭苦しい水袋に移されると状況が見えずとももう二度とあの海には帰れないのだと思い知る。ギリ、と鋭い牙が下唇を噛み締めては痛みだけが辛うじて今こそが現実なのだと教えてくれた。)
─────僕をどうする……ッ。
(解かれた水袋、その隙間より爪の尖った手を伸ばせば怯えることなく彼の襟ぐりを掴む。力任せに引き摺り寄せれば近づけた主人の顔を初めて正面より覗き、刺々しい警戒心は薄れないがほんの僅かに体の動きを止めて。驚きもする、今掴んでいる人物が、引いては己の買い手であり主人である人間が他ならない先のオークションで唯一似合わないと思った存在だった。それに気付けば掴んでいた指先より力がスルスルと抜けて水袋の中へ籠るように腕を引き戻して)
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