とある吸血鬼 2020-01-07 08:00:03 |
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( ほんの短い返答と溜息を吐き、屋敷の中へ足を進めた彼。どうやら己は合格らしく、広い彼の背を眺め乍ら顔の強張りを緩めて。案内されたそこで、己の過ごした場所とはまるで規模の違う室内を物珍しそうに一瞥した後、家主であり主人の彼へ視線を戻す。冷淡な口調で告げられた説明によると基本は好きにしろとの事で、今迄の己の生活とは正反対な迄の自由さに、驚きにも喜びにも似た胸の高鳴りを覚えて。漸く、自由を手に入れた。遅れて感じた咽ぶほどの悦びに、手をギュッと握りしめて。然し、最後の彼の言葉にはハッとした。「貴方は…吸血鬼だったのですね…」成る程、高い背も尖った耳と牙にも合点がいった。つまり、彼に愛想を尽かされた先は、追放では無く死。念願の自由を手に入れた直後の、馴染みの無いその感覚に、思わず焦りを覚える。彼に、嫌われてはならない。彼の言う事は、絶対であると。彼の要求に背く事も、遅れる事も許されない。ならば、と一つの考えが浮かぶ。幻滅されるかも知れないが、先程彼は好きにすれば良いと言った。少し間を開けた後、賭け半分に、恐る恐ると口を開いて)大方了承しました。…では…私の寝床を、貴方様のお部屋と同じにしても宜しいですか?その方が、迅速に命にお応え出来ます故。
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