とある吸血鬼 2020-01-07 08:00:03 |
通報 |
(此方を焦らす様に、恐怖心を煽る様に首を傾げては瞬きをする彼。応か否か。己の不安を紛らわせる様に、忙しなく身体の後ろで組んだ手を組み替えて。彼の意図を読み取るべく、少し高い位置にある深紅の瞳の奥を恃むかの如く見つめていたその時、彼の口からは意外にも、己を配慮する言葉が飛び出した。正解であり正解でないその偏った心遣いに、一種の親近感と安堵を覚え、口を開いては小さく小さく息を吐いて。内心は心底ホッとしていたが、余計な感情を悟られまいと視線を僅かに落とす。然し、背を向けかけた彼は途中で動きを止め、再び此方を見遣った。例えるならば、悪魔の様な企みのある黒い微笑みを携えた彼を、強張った顔で見上げた。直後、続けられた彼の言葉に、己の微動をピタリと止めて。「二度と」とは、悍しい響きであった。唯の人間も人間の己には、余りにも果てしのない言葉であった。己の覚悟の足りなさに唇をギュッと噛みしめ、制服の裾を握っては、らしくもなく其処へ皺を作る。直ぐに冷たく背けられた背中を見つめ、ほんの数秒躊躇してから、ローファーを履いた脚を一歩、玄関の中へ恐る恐ると踏み入れて、彼に付き従う様に。)
はい、虚言も二言も御座いません。私の全てを、貴方に捧げさせて頂きます。
トピック検索 |