主 2019-12-11 01:03:56 |
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>芹華
……おい?
(『……どうしてって先生。そんなの、私の口から言うの…恥ずかしいです…』。そう告げた相手の口調は先ほどにも増して弱弱しくて。“そりゃまぁ泣いてたなんてな恥ずかしいだろうな、自分でもそういってたじゃねェか。自分からバラして何考えてやがる――”とこちらが訝しげに目を細めている最中も教師たちが口々に言い合っていて)
『そっ……ああ、そうか伊月。成程な、お前と玖珂はそういう……』
『何が恥ずかしいのかね。この男に暴力でも振るわれた事実がかね?』
(眼鏡の教師は若い方の教師の言葉を遮るように片手をあげて制せば、中指で眼鏡の中央を押し上げて相手を鋭く見下ろしては言葉を続けて。『伊月一年生。その瞼の軽度膨張に鼻頭の紅変化。眼窩もうっすらと朱線が入っているが。私にはそれがどうにも涙を流していた証左であると感じるのだが、どうか?』目ざとく指摘するその観察眼はさすが護衛者を育成する側の教師といったところか。『玖珂が原因なのだろう?』そう言葉を継ぐ眼鏡は勝ち誇ったように視線を向けてくる。何か言ってやろうかと思った瞬間、手を握られてしまい。つい自分の手と相手の手をしげしげと見てしまう。“おい。なんだこれ? あれか。あれだな。お前これじゃ連行される宇宙人みたいだぞ――”などと考えている間に相手が教師たちに何か言ったようで、若い教師は『まぁまぁ先生。伊月の言うように野暮はよしましょう。青春じゃあありませんか』なんて言っていて。だが、眼鏡の方はふん、と鼻を鳴らせば痛烈にこちらを睨みつけて、こう告げた)
『玖珂恭司郎。財閥の権威を笠に日頃からやりたい放題のようだがね。立場を利用し、他人の迷惑を顧みず自己を押し通すその身勝手さ。挙句になんだね、そうして女の後ろに隠れてやり過ごそうとする姿は。わかっていないようだから教えてやる。貴様のような男を――クズというんだ』
……あー?
(その言葉にすぅ、と頭に血が昇るのを感じた。いや、或いは下がったのかもしれない。ただ、相手と繋がれた指を介したぬくもりが妙に暖かいと思った)
>美弦
! ……お、おう……。
(唐突に名前で呼ばれて目を丸くし、かろうじてそう応じた。まさかそうくるとは思わなかった――というのが、素直な感想だった。眼前のお嬢様然とした相手からはおよそ想像もできなかった。少しかぶりを振っては、いや、見た目で判断するのは違ェな、と思う。“人は妾によらない”ってやつだ。確か妾だろうとそんなの関係はないんだぜって意味なはずだ。もやもやと頭の中で妾が細腕で悪人を叩きのめしていくイメージを浮かべながら「…………んー?」と相手へ額を突きつけるように顔を寄せてしげしげとみつめてみるも、どうしても普段から人を下の名前で呼びつけてそうなイメージが結びつかず「なあ。ちっと、も一回呼んでみてくれ」と、今度は視線をまっすぐに向けたまま告げて。不意に視界に入った緩やかなヘーゼルカラーの前髪に思わず「……綺麗だな」とこぼした)
>誠
へっ……生意気いってんじゃねェよ、一年坊。
(相手の展開した持論は自身の持つ思考と酷似していて、それがなんとも愉快だった。持ち上げた手の中で中指を親指へと当てれば相手の額へでこぴんを放とうとして。飄々としているようでどこか腹を割っていない、そんな相手に「俺にゃ、お前も変わりたいって叫んでるように見えるぜ」と付け加えた。どうやら相手は自身の護衛者の事も知っているらしい。仮にも自身の護衛者を『一年の中では有名人』などと形容されては、興味を示さずにはいられなかった。“あんにゃろ、人にはあーだこーだ言ってやがってテメェだって色々やらかしてるんじゃねェか”と表情に意地悪い笑みを貼り付けると、「ほーう。面白ェ、その話詳しく聞かせろ」と、顎に指先を当ててはずずいっと顔を寄せてニヤリと笑ってみせて。それから「つーか」と言葉を区切って「アイツ、友達いたんだなァ……」などと、複雑な表情で呟いた)
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