主 2019-12-11 01:03:56 |
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>橘
あー……おう。ま、そういうこともあんだろ。
(売られた喧嘩を買うつもりで勢い込んで飛び込んだ部屋には長身の女が一人。それも白衣。つまり教師。女でかつ教師なんつったらそりゃあもう喧嘩などできるはずもなくて。吊り上げていた眦は歪み、苦々しく片目を閉じれば小指を片耳へと突っ込みつつ「教師っつったって人間だかンな」と続けて、反対の手を後ろ手にまわして理科室の扉をそっと閉めた。自分はそれをみたところでなんてことはないが少なくとも他の誰かに見られてェ姿じゃねえんだろうな、などと勝手に察して扉を封じるように体重を預ければポケットへ両手を突っ込んではぁー、と深いため息をし)
>芹華
バカ野郎。ガキじゃねェんだから『お互いゴメンなさい』なんてのァ望んでねえよ。お前は大人しく俺の謝罪をもらっときゃいいんだよ。
(ポンポンと繰り返し相手の頭を撫でつつも、言葉にした通り自分までガキに成り下がってしまったかのようで気恥ずかしく、視線を逸らせば少し早口でそう告げる。それから「だいたいな」と付け足し「泣くのに本意じゃねェってなんだよ。感じた気持ちに本意も不本意もねえだろ。いいんじゃねェの、お前はそれで」と続けた。相手の言い分がなんとも可笑しく、ふっと笑えば最後に「ばーか」と八重歯を見せて笑う。それは、泣きたい時があったとしても泣けない男という生き物にとっては羨ましくもあるのかもしれない。ふと、思いついて顔を上げれば口を開こうとしたまさに其の時、背後から自身の名を呼びながら咎める声が聞こえてきて。みれば職員室で相対していた三人の教師のうちの二人が駆け寄ってくる。主な聞き取りをしていた初老の教師の姿は見えなかった。立ち上がったのと同時に、今しがたまで泣いていたはずの相手が『黙っていてくださいね――』などと囁いた後に自身の前に立ち、なにやら説明を始めて。明らかな真偽にもとる内容に“おい”と声をかけたくなるが先刻の相手の泣き顔が脳裏をよぎればちっと舌打ちして後頭部をかくに留めて)
『君は……一年の伊月か? な、成程。目にゴミならば仕方がないですよねえ先生――……』
『女生徒の目にゴミが入ったのをどうして玖珂が取るんだね! そんなワケがないだろう。ウソに決まっている。大方――脅されでもしているんだッ! そうだな、玖珂ァ!』
(明らかに関わりたくなさそうな若い教師は場を収めようとしているのに対して職員室でもこちらを目の仇のようにしていた眼鏡の教師の方は鋭く指摘し睨みつけてきて。“まーウソだからな”とそう思うがさぁどうするかと思考する。場を収めるのは簡単だ。“俺が苛めてたんだよ文句あンのかコラ”と言えばいい。だが――。先ほどまでのやり取りを反芻すれば、ふっと口元を綻ばせて胸中でこう、思った。“守って見せてみろよ、護衛者。できるもんならな”と。それから、あれ? こいつが職員室にこない事は怒らねェのか? と小さく首を傾げて)
>美弦
宝城、つったら……あの?
(最近やたらに耳にする外資系のホテルグループの名前が挙がり、自然と視線を鋭くする。玖珂財閥とはまだ直接関わりこそないものの、ホテル関連株価では買いシグナルがほぼ点灯しているホテル産業のはずだ。トレンドライン、ゴールデンクロス、上高値突破、実家暮らしの折に弟が話していた内容をうろ覚えで引っ張り出す。その、宝城の跡継ぎがまさか――。にっこりと微笑む優雅なその立ち居姿はやはりとても儚げにみえて。「俺は――」と、こちらも名乗ろうとすれば先んじて『存じている』などといわれる。しかも色んな意味でときた。)
ちっ、どーせろくでもねェ噂だろ。大体当たってるぜ、たぶんな。
(と、そこまで言ってふと思う。或いはもしかしたらこいつは俺と同じなのかもしれない、と。カタチこそ違えど、玖珂の跡取りと聞いて自身を目にした者は大抵瞳を丸くするのだから。そう考えると急に勝手な親近感を沸かせて「悪りィが俺の方は存じちゃいなかったぜ。ただまァ。さっきのしけたツラからすっとお互い苦労はあるみてェだな――」言葉を区切り。だらしなくポケットに手を突っ込み、相手をまっすぐ見やれば「――美弦」と肩書き抜きの名を口にした)
>誠
ちっ……ったく、どいつもこいつも。家飛び出して暮らしてンなら身体ひとつで勝負してみやがれってんだ。家名だ財閥だなんて見えもしねェもんになんだって縛られやがる。
(苛立ちに歯噛みし、仄暗い天井を仰ぎ見る。わからなかった。いや、理解はできても納得ができない。家督を継ぐという宿命を生まれながらにしてそれぞれ持っている、それはわかる。だから“それらしくしなければならない”というこれがわからない。それはまるで人格や歩みを型抜きした形に俺たちという人間を溶かしては流し込み、固めていく行為と何が違うのか。もはや宿業といってもいい。そこへいくと、眼前の相手が風変わりである事は間違いなかった。まるで物怖じしていない其の姿は少なくとも好感が持てた。自身の護衛者の名前を出された時にぴん、と片眉を跳ね上げては「なんだ、知り合いかよ?」きょとんと問いかけて。)
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