碧棺左馬刻 2019-11-14 07:21:36 |
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…碧棺さん、俺です。
(外回り営業を終え会社に戻って一息入れる。壁の時計に目を向ければ指定時刻にはまだ少し早いが、退勤打刻を済ませて事務所を後にする。昨日の彼の言葉が頭を離れない。体で支払う代償とは何か。過酷な労働、人体実験の被験者、薬漬け、人身売買など様々な考えを巡らせながらネクタイを緩めようと首元に手を掛けた時、昨日の事がフラッシュバックする。痕こそ残ってはいないものの未だ残る彼の掌の感触は強烈な記憶として刻まれていた。あの様な思いをまた今日も…と考えれば喉元にせり上がってくるものがあったが、気を奮い立たせスーツの上着から名刺とスマートフォンを取り出し、地図アプリを起動する。このまま約束を反故にしたいところだが、そうはいかない。何が何でも見つけだすだろう、もしかすると自身だけでなく家族や周りの人間にも危害が及ぶかもしれない…リスクが大き過ぎる。犠牲になるなら己一人で十分だ、と腹を括り目的地へと向かう。彼の事務所に着いた頃には、恐怖に心が支配され、心臓は破れ鐘の様に鳴り響いている。逃げ出したい気持ちを抱えたまま扉の前に立ち、軽やかに二度ノックした。)
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