とくめい 2019-09-25 09:21:08 |
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燭台切:
……そう。まあ深追いはしないけど、…。
( 部屋に足を踏み入れるや否や、戸惑った狼狽の声と小さな溜息を耳が拾い上げ。表情も矢張り明るいとは言えず、己の無力さに睫毛を伏せて。別段己に出来ない相談があったところでおかしくはないし、個人として当然だろう。自身も彼女には性や立場の都合上避ける話題はある。頭では当然のことだと理解しているというのに、心がどうしてもそれを拒む。食器と皿が目の前に置かれ、切り替えがてら文句の付けようもないその見た目を褒めようと唇を開くが、音として発せられる前に口を噤み。頭にあるのは、普段はこうではないのに、という身勝手極まりない考えのみ。何とも格好付かないが、こうして一人で悶々と思い悩む方が無様なのではないだろうか。何か此方に対して思うところがあったとしても、彼女のためにもならない。そう考えると顔を上げ。)
ねえ、主。もし僕が君に何かしてしまったのなら、気負わず言って欲しいんだ。
霖:
………うん。貴方以上の人なんて、十年以上探しても見つからないんだもの。膝丸じゃなきゃ嫌。
( 十数年前の、この本丸が凍結されたあの日。翌日会った彼は何故か余所余所しく、何日経ってもそれが変わることはなかった。幼かった自分には、容姿が同じだけの別人などと頭が回るわけもなく、突き放された恋心だけを今まで温めてきた。今日やっとその想いが報われたような気がして、何故か視線の交わらない金の瞳を見遣ると、穏やかに笑い。添えられた愛おしい手にそっと頬を寄せ、僅かに伝わる熱に胸を暖め。緩慢に瞬きをし、幾ら見たとて飽きない風采を楽しみ。軈て静かに睫毛を下ろし、薄い暗闇を代わりに見詰め。初めての口付けを初恋の相手に贈れることへの幸せと、憧れの人との口吸いという行為への緊張で埋め尽くされる。煩く鳴り始める心臓の音を聞きながら、無意識に唾液を嚥下して。)
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