とくめい 2019-09-25 09:21:08 |
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歌仙:
…いや、主。別に無理をすることはないんだ。彼は狭量でもないんだし…。
( 目の縁にみるみる涙が溜まり、最後には俯いてしまった彼女に肩を竦めてその様子を遠巻きに眺め。泣かせてしまったのだろうか。普段雅だ風流だと口癖のように語っている癖に、人の心の機微に鈍いだなんて。共に自尊心を傷付けられつつ、傷心の彼女を見、袖を掴まれると皺がどうだと考えるよりも先にそのかんばせを窺おうと身を屈め。涙の引きかけたその目と視線が混じり、思わずほっと胸を撫で下ろし。しかし声色は依然沈んだままで、立ち直った訳ではないことが伺える。ごほんと一つ咳払いをすると、小言を全て撤回して彼女へのフォローを。これで機嫌は直るだろうか、ちらりと様子を窺い。)
霖:
……ね、朝ご飯、行こっか。
( 何処か満悦の様子で口角を上げる彼の言葉を聞くと、ほうと瞳を細め、絡まる視線に心地良さを感じ。瞳に映すのも腕に抱くのも、想いを募らせるのも、全てが己ならば良いのに。夢物語を描くなら、何も考えず彼に甘えられていたあの頃に戻りたい。もしも戻れるならば、彼と結婚したいと告げた際の返事を忘れず、十年間大事に覚えておくのに。幼い自分を羨めば何処か虚しく、物欲しげに彼を見詰め。彼の手を取り穏やかに微笑むと、そんな浅ましさはひた隠しにして。矢張り女性は甘え上手に限る。自身の中で結論付け、とても近いとは言えない自らに内心で溜息を。手を引いて執務室を後にし、既に朝餉後の業務のことを考え始め。)
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