若女将 2019-08-25 17:02:42 |
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旅館について
ある日少女が迷子の末、古びた旅館に辿り着いた。そこにいたのは一人の妖。
妖はこの土地を手放すのが惜しく、またこの旅館を気に入ってくれる客に申し訳が立たないと話した。
少女は無垢な笑顔で、
「それなら私が代わりに見守ってあげる」
そう約束した。
それからというもの、少女は妖にいろいろと教えてもらいながら、旅館で働く知識を身に着けた。
やがて妖は姿を消した。理由は告げられなかった。その時少女はすでに高齢だった。
やがて自分もいなくなってしまう。そうするとこの旅館を見守れなくなってしまう。何よりこんな居心地のいいところは無くなってはいけないと考えた。
最初は自分の娘だった。しかし娘の目にその旅館は映らなかった。旅館はどうやら人を選ぶようだった。
悩んでいたある日、孫娘が何もない空間を――正確には妖がいた空間を――不思議そうに見つめているのを思い出した。急いで高齢の女性は遺書を残した。
ごく普通であることを望む孫娘には、苦労を掛けるかもしれないと心配しながら。
旅館の妖たちは、高齢になった少女に孫娘を頼むよう言葉を残し、やがてこの世から去っていった。
そして現在。
遺書の通りやってきた孫娘である少女は女性となり、旅館の姿を目にする。
赤い灯りが目立つ和風な大きな旅館。前には川が流れ、大きな朱色の太鼓橋とこれまた大きな朱色の鳥居が目立つ。三階建てで、一階には温泉や食堂、二階三階は客室となっているようだ。
妖たちから女将と泣きつかれ歓迎された女性は、旅館を引き継ぐことにはっきりとした答えを出せないまま、妖たちの世界へと足を踏み入れる――。
…開店までお待ちください
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