レナード 2019-04-08 22:00:27 |
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(背中に感じた暖かく柔らかい衝撃を、前のめりに半歩よろつきながらも踏み止まって受け止める。吸血鬼を凌ぐ膂力を誇る人狼に“怒ってる”なんて告げられた日には、常人ならば恐ろしくて身震いが止まらないだろう。然しその常識に反して、湧き上がるのは視界を桃色に染め上げるほどの愛しさ。もう何度も新月の夜は超えたが、その度に見せてくれる怒った顔も堪らなく可愛いのだ。どれご尊顔を拝もうではないか、と振り返ろうと力を込めるもそれは叶わない―前述の通り、己は腕力で彼女に及ばないのだから。その不自由さすらも、貴女が与えてくれるものならば全てが愛おしいと言わんばかりに口許に緩い笑みを浮かべては「俺でさえ臭いんだ、お前の鼻にはもっと堪えるだろ。シャワーを浴びさせてくれないか、ティーナ」背中に密着する体温とその柔らかさ、ほんのりと香る貴女の匂いに、くらくらするのは錯覚だろうか、それとも本能が活性化しているからか。何はともあれこのままではまずい、既に牙は貴女の肌を突き破る瞬間を待ち望んではずくずくと疼きを訴えている。努めて平静を装って一時退却の口実を並べていれば、突然肩に激痛が奔り「―ッ!」声を押し殺し、次いで浅く息を吐き出す。ああ怒っているな、と反射的に解らせるほどに、態と痛く噛んでいるのだろう。「…どうすれば許してくれるんだ?」いつもより低いトーンの声、それを契機に周囲の魔力が集束しざわりと空気が震える。新月の夜には本能の活性化に伴い、魔力効率も上がるようだ。今でこそ膠着状態だが、その気になれば今日だけは貴女を力で組み敷くことが出来るだろう――天上で新月が嗤う今宵だけは)
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