函 2019-03-04 22:38:57 ID:299449800 |
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ラブコメの練習のはずでした。私が恋愛が苦手な理由がなんとなく分かります。
「大会」と「敗退」で韻を踏めることを発見しました。
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先輩、先輩。何度も呼ばれるのは彼が慕われている証。
他の先輩は頭に苗字を付けて呼ばれるけれど、先輩だけは『先輩』。同級生にも冗談交じりにそう呼ばれていたと思う。
なんの取り柄もない高校の弱小チーム。のんべんだらりと続く日常が嫌になって入部した日がもう十ヶ月余りも遠く離れてしまった。
間延びした練習に、大会はいつでも初戦敗退。結局は大した刺激にはなり得なかったけれど、ただ一人輝く先輩の姿は私には大きな希望だった。
彼だけが本気だった。全力だった。
常に笑顔を絶やさず、明朗快活で、実力もあった。
チームの中でも足手まといだった私に声をかけてくれた。練習にも付き合ってくれた。
血の色みたいな夕焼けの中で駅まで並んで歩いたことをはっきりと覚えている。
そんな月並みな理由で、憧れは少しずつかたちを変えていった。
先輩は『先輩』だった。
きっと誰よりも、何よりも。
私もクラスメイトも、彼の同級生さえ、もうその名前を覚えてはいない。
『先輩』は『私たち』が共通で信仰する光だ。
『私たち』は『先輩』を愛している。
『先輩』も『私たち』を愛している。
お菓子なんて食べない、漫画なんて読まない。頭脳明晰で運動神経も抜群な、休憩時間でも練習を続ける、完璧な『先輩』。
彼が生きているだけで、きっと私はこの心臓を喜んで差し出せる。
「先輩」
その一言が空気を震わせる度、あなたがほんの僅かに悲哀を含んだ不思議な笑顔を見せるのは何故か。
『私たち』には分からない。
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