匿名さん 2019-02-21 15:00:20 ID:804d1d4e1 |
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私の床下収納庫にも、もちろんジャムやピクルスの壜が入っている。
あの心躍る楽しい作業。壜を沸騰し、自然乾燥させる。木の葉や枝の切れっぱしの残るぴかぴか果実を丁寧に洗う。
初夏や初秋の午後いっぱいを使って、鍋でとろとろに煮込んだ甘い匂いのする時の恵みを、一つ一つ封じ込んでいく楽しさを、目の前の男は知らないのだろう。
お砂糖で煮た果実、酢漬けにした野菜。女にはとても愛おしく親しみのあるものなのに、男はどちらも下等なもののように見下し、自分たち高等な男には無縁だという顔をする。もっとも、彼らはそのツケを、のちのち心臓病や脳疾患でまとめて払うことになるわけだが。
私が爽やかな風を感じ、甘いジャムを煮る匂いを思い浮かべていると、彼が憎々しげに私を見た。
(『私の家では何も起こらない』/恩田陸/「私の家では何も起こらない」より抜粋)
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