罪 2019-01-12 17:26:13 |
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>>榊
(人懐っこい笑みを浮かべるイチを見ると可愛い子犬のようだ、なんて思いつつ少し笑みを浮かべていたものの、兄の名前が一度会話に出るとその笑みは固まる。自分より要領も、頭の出来も良い兄はいつも自分の欲しいものを持って行ってしまう。兄が任務中の怪我で引退せざるを得なくなっていなければ、右腕の座も兄の物になっていただろう。もしかしたら彼も。更にまずいことにあの自由人、組は抜けたものの、彼自体を諦めていない。街に行ったのも多分彼の単独行動を狙ってだろう。「そうか…あのクソ兄貴この国に帰ってきたか…。」武器の喪失に加え胃の痛みがどうしてこうも増えるのか、と小さく唸り声を上げて眉間を抑える。「あぁ、すまない。俺が寝てる間に忘れ物して無いか、と邪魔してるわけだ。」そこでは、とここに来た理由を思い出してひょっとして何か知らないだろうか、とイチに問う。
夜道でもきら、と輝く黒い瞳に懐かしさを覚えつつ、再会を喜ぶ男は彼につきまとう男が消えるのを確認できると『坊が可愛いのは変わらんね。いや、また一段と綺麗になってしもうてからに…。』スラスラと立て板に水を流すかのように浮ついた言葉を口にする。しかし、これが嘘でも誇張でもなく、本心から出たのだから仕方ない、と本人は開き直り『あぁ、まだ愚弟がお世話になってるのかな。飽きたらいつでも代わりになるよ。』と。無意識なのだろう。彼が弟の名前を出す際、その優しい目元が部下に対する優しさだけで無い、何か暖かな感情が込められているのがひしひしと伝わってくる。それが気に食わず、つい言葉の端々に棘を込めた。彼へではなく、弟に。『おや、大変嬉しいです。坊からお誘い頂けるなんて…では、お言葉に甘えて。』何であれ、彼がこちらに興味を示してくれるのは気持ちがいい。彼のあの麗しい瞳が、優しい心がこちらを見るのは何より心地よい。どれ、彼等を少しばかり掻き乱してみようかと密かに思い、彼の手を引いて。)
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