罪 2019-01-12 17:26:13 |
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>>榊
(彼の少し照れたような笑みは、まるで春の到来を告げる穏やかな風のように暖かな気持ちを運んでくれる。自分のためにその口元が緩められたのだと思うと、彼の特別な存在になれたのかと錯覚してしまう自分がいる。彼は表立っては飄々としているが、その裏では仲間な対する責任感、重圧等の数えきれないストレッサーがその双肩にかかっているのだろう、部下を気遣う些細な言葉や、普段の振る舞いとは違う彼の一面にそれを再認識する。「…やはり、貴方には笑顔が似合います…。」いつか、彼がそんな荷物を降ろせるように、心からの笑顔を見られるように、と密かに思いを馳せながらベッドに沈む。そんな中、彼の瞳が感情を通して多彩な色、輝きを見せる様を横たわりながら目にするとついまじまじと見惚れてしまう。その目を縁取る長い睫毛を、緩く曲線を描く形の良い瞼を、蛍光灯を反射させ様々な色を移す瞳を、それら全てを慈しみという感情で縛り表現するその表情を。自分の前髪を触れる彼の腕と平行するように自分の腕を彼の目元へ添わせ、その目尻の付近に指を触れると「…貴方の為なら、是が非でも。」と返答を。彼の言葉も、撫でる手も、何もかにもが暖かい。羊水の温度を知り得た事はないが、きっと似ているのだろうと重たくなってきた瞼の奥で思い付く。「…ありがとう、ございます…。」せめても、とそう言葉を紡いだつもりであったが、それは彼に届いただろうか。夢と現実の区切りがあやふやになり、上下の感覚も無くなってきた体では分からないが、きっとこの眠りはよく眠れるのだろうと直感したと同時に意識を手放した。
ぐっすりと睡眠をとったあと、少し軽くなった頭を抑えて視線だけで周りを見ると、どうやら日付を超えたお日様が窓から差し込んでいるらしい。そして自分が寝付くまで側に居てくれた彼はどこかと探す為ベッドを降りてから、自分の体内の毒物が大方薄まり、調子が戻ってきたことに気付く。それもとりあえずは報告せねば、と逸る気持ちを落ち着かせ、足に靴を引っ掛けたまま廊下へ出ようと。)
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