罪 2019-01-12 17:26:13 |
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>>榊
(治療を受ける間視線では治療の過程を眺めるものの、頭の中をよぎるのは彼と組織のことばかり。先程彼が紡いだ言葉…、先程のような組織、つまり武器商売は固体が多いものだが、取引先はどのようになっているのか。捉えた輩はどうすべきか…悶々と頭の中で思考を巡らせていると、退室する救急班に「すまない、ありがとう」と簡単に声をかける。その声が壁に反射するかしないかの境目で現れた年上の部下に少し不思議そうな顔をする。彼も古株なのだから、もっと若い者に使いっ走りをさせてもいいものなのに、とよぎった疑問も、信頼の置ける部下が必至に解毒薬をいち早く届けてくれたと分かると薄れる。「迷惑をかけたね…ありがとうございます。」まずは謝辞を述べ、置かれた小瓶の中身を見るとそこに入っている液体を珍しげに見る。その透明な液体が毒であることなどつゆほども疑わず、失礼します、と相手に背を向けその毒薬を飲み干して。「…そういえば、今日は休みじゃなかったんですか?休みの日はよく家族サービスしてますもんね。」なんて、解毒薬を飲んだつもりの本人は、相手が昨日の現場にもいたことを思い出して、少し不思議に思ったことを口にしながらマスクを付け直し。相手が家族思いであることは組織の中ではそこそこ知れ渡っており、自分も酒の席などで数回自慢げに家族写真を見せてもらった事がある。相手と同じような優しげな奥さんと利発そうな女の子。偶に町で肩車をしてあげている相手達を見たこともあったことを思い出してついそんなことを。そして、何故か今別室で治療中の彼のことも思い出してしまう。榊さんも、そうやっていつか女性と結ばれる時が来るのだろうな…あの微笑みに幸せな色を称えて、と漫然とした気分の中唐突に、ごく自然に、そして自分でも気づかないようなほんの僅かな嫉妬を混ぜてそんなことを思う。「…梔さん?」ボーっとしていた自分を不審に思ったのだろう、図らずも今回の裏切りに関わることを話しかけられた部下の声は震え、違和感が垣間見える。しかし、その声でハッと我に返った本人はそれに気付かず振り返って「これは御頭に、ですね。ちゃんと伝えておきます。」と例の小瓶を手に取り病室から廊下へ出て。)
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