罪 2019-01-12 17:26:13 |
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>>榊
(案外すんなりと。言葉としては何とも質素な選びになってしまうが、案外すんなりと彼は自分の申し出を受け入れてくれたようで、思わず笑みをこぼしながら「自分に出来る精一杯のエスコートをご覧に入れましょう。」と半分本気、半分冗談でまた一つ言葉を。簡単な言葉を交わしながら彼と身を寄せ合うと、じわりと熱が伝わってくる。更に肩を寄せている相手が思い馳せる彼だと意識してしまえばそれは尚の事。春の陽気にも、初夏の日差しにも似たそれを独り占めできるようなこの錯覚は実に甘美。故に蠱惑。コロリと変わるその表情が、そっと控えめに預けられた体重が、愛らしいそれらの仕草の段階を経た先に待つのは可愛らしい花ではなく、例えるなら妖艶な蝶。女性のそれとはまた違う形の整った唇が悪戯気に三日月を模るのを目で見て3秒、脳で考えて2秒。その魅力を受け止めるのにかかった咄嗟の合計約5秒換算の末に出たのは「…好きなので。」という主語の見当たらない言葉。口に出した後まだもっと他に言える気の利いた言葉があっただろうに、と後悔するも後の祭り。何と言おうか、考える前にそれをやめてしまったのは彼の温もりが無くなってしまったから。彼の怪訝そうな視線は今まで何度か見たことはあるが、それが今自分に向いた。どこで間違ってしまったのだろう。ぴし、とガラスに亀裂が入るように背筋に冷たいものが走り、気まずくて目を逸らしてしまう。だめだ、嫌われた?ぐるぐると一瞬にして脳味噌が回り始める。じわりと手に嫌な汗をかき始めた頃、感じた彼の声と手の感覚。ぱ、と目を再び合わせると笑顔から滲み出る疲れが見て取れる。そうだ、彼を守るためなら彼から嫌われる覚悟も必要なのだ…そう、頭の片隅で何か悟ったような気になるがそれに浸るよりも先に相手を安全な場所まで運び、手当するのが最優先。片付けをすっかり終わらせた部下達におつかれ、やありがとう、助かった、等労いの言葉をかけつつも捉えた輩の所持する解毒剤を探すことと、御頭をアジトへ運び、どのような症状なのか救急班に分析するよう指示を出して。)
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