V子。 2018-12-13 00:45:10 |
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「愛してるって言ってくれ」
大して情もない男と開幕これじゃあどうしようもないと思うのは私だけだろうか。
男はいつでも完璧だった。顔、身体の造形から性格の良さ、目に見えるもの見えないもの全て。
部下から上司から同僚から常に信頼される立場にある。完璧を、それ以上を求められたとしても嫌な顔ひとつせずに応える。本人曰く、それが美とのこと。私にはさっぱりだ。
しかし完璧であるが故に脆かった。身体をミシンで縫い合わせてる糸を1度切ったらそこから綻びる。いくら何度も重ねて縫ったとしても。
するりするりとあっという間に糸は解けてしまい元に戻すことは不可能。縫い痕が大きくなりすぎたようだ。果たしてこの男は何がきっかけで誰に崩されたのか。そんなことはとうの昔に忘れてしまった。
男は私と2人になるたびに狂ったように愛を求める。果たしてこの世の中愛に需要はあるのか。
私はそれに優しく「愛してる」と応えてあげる。そうすれば肩に顔を埋め安心したかのように呼吸をする。
「私も愛してますよー」
口を開いてしまったと思った。もう遅い。いつものように聖母のような笑みと言葉ではなく、あまりにも心無い声色で紡いでしまった愛の行方は誰も知らない。
しかし、悪い心がこの男の反応を見ようと私に謝罪のひとつふたつを入れさえてくれない。ベッドの上で情けなく座り私の顔を見てる男はとても滑稽に目に映る。果たして彼の眼の中の私はどんな表情だろうか。
「俺を...愛してないのか?」
溢れ出る涙を初めて見た。ああ、この男も人間なんだなと不意に思った。
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