夕暮れの声 2018-12-02 22:21:48 |
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ある日世界は唐突に動きを止めた。あらゆる生命体が眠るように息を引き取り、腐ることなく転がったままだった遺体は気が付けば消えていた。昆虫も植物も、往来を行く人の姿も。初めから存在しなかったかのような静けさだけが残された。いや、それは言い過ぎか。無人のビル群、動かないぶらんこ、無意味に点滅を繰り返す信号機。人の作り出した無機物たちは、かつて地球上に存在していた人間という生き物を証明でもしているようだった。
長い前置きはさておき、冷たい街を見下ろす小高い丘に一つの古ぼけた映画館が建っていた。上映出来るのは一昔前のフィルム映画のみで、観客は近所の老人ばかり。よくいえば温かみのある、悪くいえば時代錯誤の映画館であった。しかし今。年老いた映写技師も観客も、人の姿など何処にもない劇場で、理由無くフィルムは回り続ける。そして、飛び出してきたのは先程まで歌い踊り怒り悲しんでいた、映画の登場人物たち。死んだ世界の理由も知らず、勝手に動き続ける人工物の謎も分からず、己の存在理由も聞けず、彼らはこの世界で生きることを余儀なくされた。これは、映画の筋書き通りの感情しか知らない人間一年生の織り成す、切なくも美しい終わりの物語。
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