小説家 2018-11-29 01:25:00 |
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(窓際に立ち、煙を深く吐き出し乍外を眺めていれば微かに雪がちらつき始めどうりで冷える訳だと。相手の心配通り、一日何も口にせず煙草ばかり吸うものだから僅かな目眩を感じてまた深く煙を吐き出すとようやく煙草を灰皿へと押し付け。歳のせいで無理が身体の不調に直結するようになったのは避けられない事実、決して健康的とは言えない仕事の進め方をする自分に対して身体が冷えないようにと半纏やらお茶やらを出したり無理にでも食事を口にさせたりと甲斐甲斐しく世話をしてくれる相手がいなければ、あっという間に身体に不調をきたしてしまうだろう。何か口にしようという気になって台所へと向かえば、鍋の横に貼り紙が。出て行く時に相手が貼ったものだろう、こんな時まで自分のことを気に掛けてくれているのかとどこか呆れた気持ちになりつつ蓋を開けると丁寧に煮込まれた筑前煮。菜箸で野菜を一欠片口に放り込むと、優しい甘みが口に広がった。彼は何処まで行ってしまっただろうか、田舎から一人で出て来た相手が身を寄せられる場所など東京には無いはずだ。一人冷静になると、余裕の無さから随分と酷いことを言ってしまったと後悔の念が湧き上がり、窓の外の雪も少しずつはっきりとした形を描き始めたのを見て溜息を吐き。一度部屋に戻り着物の上から羽織に袖を通すと下駄を履き、玄関を出ると傘を開いて片手に彼の傘を持つと一人で門をくぐり彼を探しに出て行き。)
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