小説家 2018-11-29 01:25:00 |
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──…早いうちに後任を探して置かないと、と思ってね。
いずれ二人で暮らす事になるなら、ちょうどお前さんが留守にしている期間に来てもらった方が都合が良いだろう。
(受話器を置く音、当然の事ながら戻ってきた相手は何が何だか分かって居ないというような困惑した顔をしていた。相手の目を見ないままにそのわけを冷静に説明するも、明確に「後任」という言葉を選んで。二人に増やすのではなく、あくまで相手の代わりなのだと。相手が結婚を決めて此処を出て行くと明言したわけでもない。しかし彼の母親から電話があったあの日から、自分の中で相手の幸せを願う思いと独占欲にも似た嫌な感情が交錯していて、良い心持ちがしない。自分はあくまでも相手の幸せを願っているのだと、自分自身に証明するためだけに突き動かされているようだった。気付かぬうちに相手に酷く執着している自分が理解できない、相手は幸せになるべきで其れを引き留めるような事が有ってはならないのだと思うあまり、不器用な小説家は結局自ら相手を突き放す事しかできずに。箸を置くと漸く相手と視線を合わせてそう告げて。)
……そういうわけだから、此方の事は気にせずゆっくりして来ると良い。帰りが遅くなるようだったら電話を一本寄越してくれれば、其れで構わない。
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