小説家 2018-11-29 01:25:00 |
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──親御さんからかい。
(電話の音が遠くで響き、直ぐにやむ。相手が留守にしている時以外は電話を取ることもない、直接話が必要な編集者からの電話であれば相手が呼びに来る筈で、今日はその気配はなく己の作業に没頭して。手を伸ばした湯呑みを口元まで持って行って、既に中身が無くなっていた事に気がつく。相手を呼ぼうと声をあげようとしたが、先程の電話の対応中だろうと思い出し、筆を置くと湯呑みを片手に腰を上げて。書斎から台所へ行くまでの間にある縁側に面した廊下、明るい日差しと涼しい風が心地良い。そろそろ風鈴でも出そうかと考えつつ居間に向かうと、ちょうど電話をしている彼の声が聞こえた。薬缶を火にかけつつ、耳に入ってくる会話はどうやら母親からのもののようで。珍しく戸惑った様子の声、湯が沸くのを待ちながら自然と意識は相手の話し声へと向けられていて。世話役とは言え、大切な息子がいつまでも住み込みで働いて居たら親として心配しない訳がない。ふと思えば相手が此処にやってきてから6年、年齢的にもそろそろ結婚を考えるべき歳だろう。明確な言葉はなかったが想像するに電話の内容は見合い話だろうと見当が付いたのは、流石想像力が仕事に直結している小説家だからこそとでも言うべきだろうか。相手が電話を切り小さな呟きを零したのはちょうど湯が沸いた頃。急須に湯を注ぎながら、おそらく自分がいる事に気付いていないであろう相手に声を掛けて。)
(/いえいえ、大丈夫ですよ。ありがとうございます。相手と話して見合いに行く事を勧め、見合いの日程が決まった頃に後任の世話役の募集を編集者に頼もうとしている事を編集者伝てに聞いてしまって…というような流れはどうでしょう?不器用な小説家らしく相手を幸せにしようと思う余り、というような。喧嘩を経て、見合いに行ったにせよ結局元通りになれればいいかなと!)
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