小説家 2018-11-29 01:25:00 |
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またあの頃みたいに毎日戸を叩いて騒がしくされるのは勘弁だ。何一つ仕事が進みやしない。
(また六年前のように世話役にしてくれと騒ぎ立てられるのは勘弁して欲しいと、相手の言葉に嫌だと肩を竦めて見せつつ。自分の決して健康的とはいえない締め切り前の生活にも対応してくれる相手の存在は大きなもので、その献身的な支えがなければ身体を壊してしまいかねない。普段から、特に締め切りが迫って来る時期は人を寄せ付け難い雰囲気を纏っていることは自負しているため、そんな自分にも臆する事なく接して来る相手は寧ろ有り難い存在。きちんと訓練された世話役だとすれば、気を遣って書き物に専念させてくれるかもしれないが、その代償に不摂生な生活を続ける事にも繋がるだろう。自分にとっては、何かと文句を言いつつも相手の存在が一番居心地のいいものになっていて。普段より豪勢な食事、相手も気に入ってくれたようで、欲しかった物もいろいろ新調できた今日は機嫌が良かった。それも手伝って食事と酒とが進み、店に来てから小一時間が経つ頃には相手のちょっとした言葉にも柔らかい表情を見せるようになっていた。どうやら見掛けによらず酒が入ると笑い上戸になるようで、酒が進むに連れて機嫌の良さが顕著に分かるようになってくる。人前で酔う事は滅多になく、ここまで饒舌で楽しそうな様子はそう見られないはずで。ほとんど顔色は変わらないが、よくよく見ればその白い肌に僅かに朱が差しているだろうか。相手が美味しいと言っていた蕨の天ぷらと魚の西京焼きをおもむろに相手の皿に移しながら。)
──ほら、私の分もお食べ。毎日よく働いているから、…お前さんが居るから、落ち着いて話が書ける。
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