小説家 2018-11-29 01:25:00 |
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私と違って、お前さんには温かみのある色がよく似合う。寒色も良いけど、お前さんの印象には私もこの色が一番良いと思うよ。
(相手が選んだ着物に、納得したように頷いて。自分の着物ならば選ばない色ではあるが、相手には温かみのある色が良く似合う。一番良いと思っていたものを相手が選択したことに満足そうにしつつ手に取ったのは臙脂色の反物。深みがあって、それでいて温かさと凛とした雰囲気を醸す色は相手の初めての着物に相応しいだろう。華美な柄や装飾のない無地の布地、今時の若者ならば透かし模様の一つでも入っていた方が良いのかもしれないが、相手には余計な装飾は要らないように思えた。相手に臙脂の反物を羽織らせつつ、持って来てもらった帯をまた鏡越しに合わせてみる。臙脂色の着物に対して少し落ち着いた色合いの、白鼠色に薄く波模様の入った角帯が一番ぴんと来たようで、帯に関しては相手の希望を聞くことなく即決。着物が無地な分、帯には多少模様が入っていた方が映えるだろう。店主に声を掛ければ、呼ばれた店主は手慣れた手つきで相手の肩幅や丈などを測り紙にメモしていき。自身も先程合わせた幾つかのうち気に入った様子だった二着を購入する事に決めたようで、流石は長く通い詰めているだけあって注文の遣り取りも互いに無駄がない。店主も早々に寸法を測り終えるとその言葉に頷いて、三つの反物を抱えて。)──御主人、この臙脂色の反物にします。帯は此れ、悪いけど寸法を測ってやって下さい。私も先に合わせた煤竹色のと梅紫のを頂くので今日は三着。いつものように、出来上がったら家まで届けて下さい、急がないので。
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