小説家 2018-11-29 01:25:00 |
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全くだよ、…お前さんが来たばかりの頃、少し濃いめに淹れてくれと頼んだら急須から溢れんばかりに茶葉を入れた事があったね。あれには度肝を抜かれた。よくもまあ右も左も分からない状態で私の所に直談判に来たもんだ、其の度胸だけは褒めてやらねえと、…
(相手の言葉を聞くうちに、6年前相手を住まわせ始めたばかりの頃の思い出が色々と蘇ってきて。一番初めに淹れさせたお茶は薄いし緩いしで拘りの強い自分にしては飲めたものではなく、口煩く注意し乍時間をかけて自分の好みを相手に叩き込んだのだ。また相手が来てすぐのある時は、少し濃いめにと注文をつけた時に加減が分からず大量の茶葉を急須に詰め込んでいた姿を思い出し呆れと笑いが入り混じった表情浮かべて。世話役を志願して来たのはこれまでにも相手だけではなく、かつては何処其処で経験を積んだ、という有能な志願者もいたため、全てが並以下で右も左もわからず、自分の身一つで実家を飛び出して来た相手は此方からしてみても異端だったのだ。しかし結局技術よりも、その熱量に押されて相手を生涯たった一人の世話役として迎え入れる事となった訳で、相手の度胸と熱量だけは讃えるべきだろう。お茶を一口啜ると肩を解して貰うため羽織を脱いで軽く畳みつつ、役に立てていれば良いという相手の言葉に対し、はっきりと言葉にこそしないものの相手の仕事ぶりを肯定している言葉を。)
…野暮なこと聞くんじゃあないよ、もうかれこれ6年も置いてるんだ。今更手離す気もないよ、お前さんには私が死ぬまで側に居てもらわないと。
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