✿ 常世からの呼び声 (創作/指名制)

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✿ 主  2018-11-05 05:29:18 
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随分と長い間、貴方は石階段を登ってきた。

その場所に見覚えはないだろう。
左右は鬱蒼と茂る木々に挟まれて、暮れなずむ陽は貴方を朱く照らし続けている。石階段の終わりには随分と古びた鳥居が一つ、その先が神社であると推測するのは難しくない。けれど貴方がそれを認識できるかは、別だ。

思考も感覚も朧げな貴方に分かるのは一つだけ。
呼ばれている。
呼ばれているから、石階段を登っているのだ。

一段、貴方は足を踏み出す。
一段、着実に一歩ずつ。
一段、足取りは不確かに。

そうして終わりが見えてきた。
後一歩、その石階段に足を載せれば鳥居の向こう側を見ることができる。鳥居の向こう側にいる、貴方を呼ぶ何者かがそこに居る。

一段、貴方は最期を迎える──筈だった。


>幸運にも誰かが貴方の手を掴む。そしてもう片方の手で、しぃ、と口元に人差し指を当て、貴方を石階段の下へと誘った。



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  • No.65 by 倉留 鮮  2018-11-18 19:25:17 



>60 銀弧

( 人ならざる者が人の心の機微を理解できるかどうかは謎だが、ともあれ狐耳の男は無遠慮に胸内へ踏み込むことはしなかった。単に面倒だからという可能性も捨てきれはしないが、こちらが落ち着きを取り戻したとわかるとすっかり肩の力を抜いて賢者の顔をしている。「あ、ありがとう……?」名を褒められたことに対する礼はとりあえず述べたが、自分の価値観は絶対だと信じている物言いに内心驚かされた。──元の世界にはいたのだろうか、肩書きがなくても自分に優しくしてくれる人間が。今となっては肩書きがあったのかすらわからないけれど。やっとの思いで唇にのせたファーストネーム……すべてを名乗る勇気はなかった。自分のものだという実感がないのに、知識として身に着けたそれを名乗っていいのか自信がないからだ。
続く言葉に目を瞬かせる。人間が相手でも大丈夫、とは一体どういう意味なのだろう。「……勝手な奴」なんて悪態をついて、夕陽を背負った男の顔を複雑そうに見つめた。彼の日常に飛び込んできた記憶喪失の人間だって、十分勝手だとわかっているから嫌になる。俺の腕を引いたのは気まぐれか何かだとしても、居候として抱え込もうとはさすがにお人よしが過ぎるのではないだろうか。その後の問いかけに少し考える。記憶を失う前にしたかったことなどわかるはずもないが、失った後の自分は多分、他にすることがなかったのだ。過去の行動を振り返ってそう思えるくらいには、俺の心は凪いでいた。だから黙って首を横に振る。一歩下へ進んで男の隣に立つと、申し訳なさそうな横顔をして呟いた。 )
……何から何まで悪い。世話になる。


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