艶 2018-10-27 21:19:25 |
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(どうしたってこの少年は、舞台の上とはまた異なる顔を持つのだ。少なくとも昨日に見たまま感じ取った印象は演者の面を被った彼で、中性的な美を併せ持つこの子が砕けた表情で軽快な笑い声をあげたのが、右京には何となく愉快だった。勿体ぶらずとっとと我が家へ連れ帰ってやろうとも思った。薄っぺらな言葉で表現するならばこの子は、"可愛い幼子"などと称するに値するのだ。尤も、図体がでかいだけの右京のちゃちな頭では上手く感情を説明する絶妙な形容詞が浮かんで来ないだけかも知れないが。右京は、まるで能のない不出来な人間を掌でコロコロと転がし弄ぶのが好きだ。しかし一方で、掴み所のない飄々とした、更に欲を言えば職種や年齢といった社会的地位などにおいて自己より低い地位につく者に振り回されてみたいというのも正直な話願望の一つである。他者の我儘を全て呑み込んでやったり甘やかす行為そのものに快感は感じ得ない。右京が望むのは似て非なるものであり、要するに理解に至らない未知の生物を自ら解き明かしてやりたいだけだった。刺激だけを求め続けた人生で、最もつまらないのは思考も感情も読めてしまう単純馬鹿の世話を焼くことだったから、と数瞬の間にここまで考えを巡らせた所で思考を停止する。団長と呼ばれた男に万年筆で書かせた"艶"の字を骨張った指でそうとなぞり「お前さんにぴったりの良い名前じゃねェか。」と褒める癖して、自分より幾つも下の少年相手に何だかくだらない悪戯でもしてみたくなった。エン、えん、艶……と名前を呼ぶのは彼がそれを望み強請ってからにしよう。さぞ可愛い事だろう、名前を呼べ呼べと冀求する姿は、と。するとどうだろう、己のものと比べか細い指先を絡めるようにして彼自ら力強く手を握り威勢良くお得意のお喋りを始める。また右京も、怯む様子もなくあっけらかんとした弁口で言葉を返す。「金なんてのは払っちまえば責任はみんな俺のもんだ。餓鬼一匹を引き取るのに失敗も成功もありゃしねェ、俺ぁお前を気に入ったぜ。」性懲りも無く、しかし今度は力加減を誤らぬようほんの少しばかり慎重に真下で跳ねる頭を捕らえて撫でてやる。繋いだ手が足枷になろうと両者にとって後戻りなどという選択肢は今日この世から抹消されただろう。「それじゃ行くぞ、お前を迎え入れる為にな、今朝何年ぶりかに断捨離をしたんだ。この俺がだぜ。」見世物小屋に身を残す演者らへ挑発的な言葉を並べ立てる声が耳に届くより前に、彼の手を引き、どん、と迷いなく踏み出した堂々たる一歩が物語るのは右京の強い意志そのものであり)
(/嬉しいお言葉の数々が身に染みるばかりです……!今後会話を続けていく上でロルや右京の人物像に関してなど不都合な点がございましたらその都度仰っていただければ改善に努めます故、何卒宜しくお願いいたします。)
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