隊長 2018-10-24 21:35:56 |
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お前も、気を使うなよ。何も我慢しなくて良い
(“何も気をつかってない”_それなら先程の出来事を伝えたほうがいいのではないかと視線がほんの少しだけ横へ逸れる。隠すこともないし伝える気はある。ただ内容が内容だけに折角の相手との食事の雰囲気を壊したくなく、やはり今は言い出す気にはなれなかった。すぐに相手へと少し真面目な表情と発言を向けることでコンマ数秒の間を誤魔化すと、玄関で相手と顔を合わせたときの違和感も引っかかっていたため、何が抑えているものがあるなら不必要だと。それでも纏う空気は追求も勘ぐりもなく一歩二歩下がりゆっくり待つようなもので。
………、それは、飢え死にして困るな。でもお前が毎日作ってくれるならそうなってもいいかも。
(相手が俯いたときに髪の間から少し見えた表情、そして顔を上げたときのその表情を見て、今度はこちらが言葉に詰まった。歳上の男に対して抱く感情としてはおかしい。少なくとも自分の中では。__かわいい、と思ったのだ。もっと言えば愛らしいに近い感情。平静でいられたなら相手のその表情をからかってやる余裕もあったが、軽口に半ば本音の冗談を返すので精一杯だった。差し出されたお猪口に軽く自分のお猪口を当てて口に運べば絶妙な温度に温められた酒が口の中に広がり胸の辺りが浮つく感覚にまるで今の自分の気持ちと同化しているように思え。コトリとお猪口を置き、お待ちかねの相手の手料理。ここでも以前はすることなかった「頂きます。」を律儀に手を合わせ小声でする。兄や父がしているところは見たこと無いが礼儀としては当然のこと。そして箸を手に取り里芋の煮付に手を付け口に含めば味わうようにゆっくり咀嚼する。芋の旨味と食感をほど良く残しながらしっかりと味付けされたそれは胸をじわりと暖かくさせる。相手に家庭料理を頼み母親の影を求めたのは無意識だったが、今相手の料理を食べても母のことを思い出すことはなかった。
おいしい…、こんなに料理が出来るなら詐欺やら窃盗なんかしないで店でも開けばいいんじゃないか?___いやでも…、他のやつにお前の料理を食べさせるのはやだな。
(素直に感想を零せば自然と頬も微かに緩み、本気で相手が店を開いたら料理の腕は勿論その容姿と人柄も相まって繁盛店になるだろうと相手の罪に軽く茶化しをいれながら提案してみる。しかし相手が自分以外の人間に料理を振る舞うと考えると何故か良い気がしなく独占欲のような蟠った感情を煮物に視線を落としてそのままボソリと零した。)
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