隊長 2018-10-24 21:35:56 |
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(重たい扉の奥には自分が殺さなければならない男がいる。ここまで来たのだ。もう迷いはない。一度見張り役の部下に意志の確認をするようアイコンタクトを取ると浅く息を吸って扉を開く。相手の軽口にまんまと乗せられ苛立って腹に蹴りを入れる兄が此方に気づき待ってましたと嫌な笑みを向けてくるのから視線を逸し、すぐに相手を見やれば足の拘束がされていないことに気付いて相手を甘く見過ぎだとほとほと警備の緩さに呆れる。本来なら自分は余計な時間を使うのが嫌いなためこの部屋に足を踏み入れた時点で一切の前置きなしに殲滅対象を射止めていただろう。相手を殺す覚悟が決まっていれば恐らくそうしていた。が、今はほんの少しの時間稼ぎが必要だった。
『さっさとしろ。…いや、散々痛めつけてから殺すのもいいな』
「拷問ではないんですから、時間の無駄です」
『ッ、お前最近口答えが過ぎるぞ。こいつの影響か?あァ?』
(少しの反抗をして見せれば予想通り突っかかってくる兄を単純なやつだと内心愚弄しつつ無表情にほんの少しの哀れみを込めて見返せば「そこに立っていると返り血で汚れますよ」とすぐに殲滅を決行する意を示し、それこそ無駄な、醜態を晒す会話を強制的に終わらせる。苦虫を噛み潰した表情で離れていく兄、そしてマジックミラーの奥で此方を伺う長官を一瞥した後、ようやく相手と目を合わせ一見表情のない暗い瞳で見下げて。
さすがのお前もその怪我では逃げられなかったみたいだな。__言い残すことはないか?
(最期にとは言わなかった。銃口を額に向け、相手の表情を伺うとどこか諦めているようにも見えた。『生きてて欲しかった』と紡ぎ、相手自身が生きる道よりも自分を生かすことを優先し命を投げ出す真似をした男。人殺しの、凶悪犯。そして今、決められた道を愚直に進んできた自分の足先を変えようとする起因になった男。_気に入らない。はじめから今も、相手に乗せられているようで。だが悪い気はしない。相手といる時に度々感じていた高揚感。世の中で正しいとされることを是とせず、技と逆らうスリル。今自分を満たしているのはそれだった。表情は冷たい。だが声はどうしてもどこか弾んでしまう。今の相手は気付くだろうか。もし気がついていて万が一死んでもいいなどと思うなら本当に引き金を引いてしまおうかとも思うが。_まあ相手の意志など関係ない。迷いはない。自分のすることはもう決まった。)
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