小説家 2018-10-24 19:26:17 |
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そのあどけなくも鮮やかな声が……(台所へ来て味噌汁と煮物を温め直し、同時に薬缶で湯を沸かしているあいだにも、さっきの言葉が頭をぐるぐると回っている。あの紙の中に、どんな世界が広がっているのだろう。そんなことを考えてぼんやりしていると、そばに置かれた湯呑みを見つめてぱちくりと瞬きを。少しして自分が下げ忘れたのだと思い当たれば、食事を待つ相手の背に声をかける)ご、ごめんなさい!私、すっかりぼんやりしてしまって(相手がこの湯呑でないと茶を飲まないというのは重々分かっているのに、食事の前にこうして置いてきてしまうほどに入り込んでしまったのだ。先生の本を愛する一読者である前に、使用人という立場を忘れては元も子もない。こちらへ背を向けて座る相手に、深く頭を下げて)
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