執事長 2018-10-04 22:19:25 |
通報 |
>ルシアン
(本来、叱ってやらなければならない事だった。屋敷は危険だ、一人で出歩くな―そう忠告していた筈。けれど貴方はとても聡い子。言いつけを破って危険を冒したのは、のっぴきならない理由があったのだろう。だから、その理由を告げられた今となっては、命知らずな無茶を仕出かした貴方を叱る気力はしゅるしゅると萎み、それと入れ替わる様に暖かい感情が溢れ出す。貴方の体温を腕の中へ包みながら、心地よい体重を感じる。噛み締める様に長く吐かれた息に乗せられた感情は、きっと安堵だけではないだろう。「…俺達は、比翼の鳥。そうだろ、ルシアン」死の淵まで追いやられた貴方の心的外傷は慮るに余りある。どうすればその不安を和らげてあげられるだろう、口下手な怪物が頭を捻って辿り着いたのは、まさしく貴方が教えてくれた言葉。それにもう一押し、ふさふさの尻尾を貴方の手元へと運べば「握ってていいぞ」掴むのならば、服よりも此方の方が効果が高いだろう。そうこうしている内に、辿り着いたのは己の部屋。一度だけ、一緒に眠るために貴方を連れて来たことがあったが、あの時貴方は寝惚けていて、あまり覚えていないのかもしれない。小綺麗に片付いた室内、無駄な家具は置かれていないものの生活感のある小物が点在する辺り、人間の部屋とそう変わりはないだろう。ベッドの上へ貴方を下ろせば、自身もその隣へ腰掛けて「…よく頑張ったな。もう目を開けても大丈夫だ」そっと目隠しの手を取り去りつつ、いくつもの不穏な考えが頭を巡る。もしかして貴方は自分の部屋の方が落ち着くのではないか。己の部屋へ連れて来てしまったことは悪手だったかもしれない。そもそも、怪物が人間を襲う場面を貴方は見てしまったのだ。どう声を掛ければいいか、考えあぐねて結局、貴方の傍に寄り添うことしか出来ず)
トピック検索 |