執事長 2018-10-04 22:19:25 |
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>ジェイド
(薄明かりに姿を現したのは、今もっとも会いたいと思い浮かべていた彼とは似て非なるもの。躍動感に溢れた跳躍力、一気に眼前まで距離を詰められてしまう。咽喉に感じる圧迫感。反射的に手を首から離そうと両手で怪物の腕を掴むがびくともしない。苦しさに喘ぐように口を何度か開閉して。威圧するような咆哮は相手に恐怖心を与え心を挫くのに効果的だ。大きな口にぎらりと鈍く光るのは鋭い歯。怖い筈なのに…何故だろう。先程まで恐怖に竦んでいた心は、目の前の怪物が彼と似ているだけで愛しさにも悲しさにも似た、複雑な感情に満たされる。今この瞬間も彼は抱えきれぬ苦しみに物悲しげな雄叫びをあげ、必死に足掻いているのではないだろうか。全然雰囲気は違うのに、目の前の怪物と心の内で必死に戦う彼の姿が重なってしまった。動揺するように瞳は微細に揺れる。食べられるのか、最早そんな恐怖よりも彼のことだけが気になった。「……ジェイド」ポツリ、零したのは大切な名前。首を掴まれているからか、それは頼りない声量になってしまった。いつも彼から会いに来てくれた。でも自分からは彼に会いに行くことさえ叶わない。たったそれだけの事がひどく悲しくて寂しかった。きっと言い付けを破った結果、最悪な展開を招いてしまったのだ。後悔しても時既に遅し。せめて夢の中では彼に会いたくて、そっと両目を瞑り)
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