執事長 2018-10-04 22:19:25 |
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>マリーシュカ
(ドクン、大きく鼓動が打ち鳴らす。先刻、彼女に向けた笑顔はどうやって作っていたのか。表情を作ることを忘れてしまったように、す、と顔から感情が削がれる。何を言ったのか、聞かされたのか、上手く脳が作動しない。否、理解したくないだけ。彼が抱えていた秘密は大きすぎた。一体どれだけの沈黙が流れたのか。はくはく、と呼吸を求めるように小さく口は何度か開け閉じを繰り返すが、漏れてくるのは虚しい空気音だけ。とんでもない秘密を暴いてしまった。どんな顔をしてこれから彼に会えばよいのか。…そもそも彼に顔合わせ出来る資格はあるのか。「……なんとなく、感じてたんだ。きっと、とっても大きな秘密を持ってるんだろうって。でも、…あんまりにも……っ」その先の言葉は続けられなかった。無意識に漏れてくる嗚咽が喉を塞ぐ。太腿の上に腕をつき、組んだ手に額を押し付ける。まるで何かに懺悔するように瞳を閉じて。「…なんでジェイドなんだろう。神様は意地悪だっ。言葉を交わせるのは心を通わすためでしょ。なら…僕たちは言語が別だったら、姿形が似てなかったら、最初からお互いに心があるって知らなかったら、苦しまなくてよかったんだ!」彼女に言っても仕方ない。其れは分かっているのだ。だが衝撃は軈て理不尽な怒りに変わる。なんで、とかどうして、など世の摂理ならば変える事は出来ない。受け入れるしかない、そう学んだはず。だが諦めるなんて出来ない、ひっそりと反抗心が芽生えてしまった。きっ、と仇を見るように窓の外の青空を睨み付ける。一度臨界点まで激したからか、あとはシュルシュルと冷めるだけ。「…ごめんね、マリーシュカは悪くないのに。有難う、教えてくれて。この屋敷には僕たちを食べちゃう人がいっぱい住んでるってこと…?だから部屋から出ちゃダメだし、招き入れるのも良くないの?」再三注意された事項を思い出すと、確かにそこには彼の優しさがたっぷりと含まれていたのだ。怖い思いをしないよう、傷付かないよう、細心の注意を払ってくれていた。どこか力をなくしたような声音でポツポツと問いを投げかけ)
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