執事長 2018-10-04 22:19:25 |
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>ドロシー
(――貴女が開いた扉に背を向けるようにして、ヴァンパイアは其処にいた。見慣れぬ部屋、天蓋付きのベッドの上、どうやらうら若き少女と抱き合っているような体勢であることが、後姿からでも見て取れるだろう。その少女の揺れるブロンドは、まるで貴女を彷彿とさせた。しかし彼女のそれは貴女のように透き通った金髪ではなく、染色を幾度も繰り返したのかくすんでしまっていて。けれど、手入れの間に合っていない髪とは対照的に、目鼻立ちは整い、涼しげな目元には年齢には不相応と思えるほどの色気があった。瞳は鮮やかなグリーンだが、――焦点が合っていない。虚ろに開かれた瞳はただ虚空を見詰め、呼吸すらも覚束ない。じゅるる、と何かを啜る音。ちゅ、ちゅ、と何かを啄む音。明らかに異音。そしてそこで明らかになるのは、ヴァンパイアが少女の首筋に顔を埋めていたこと。深々と経脈に突き刺さった二対の牙が、傷口から溢れ出る鮮血を逃がすまいと首筋を啄む唇が、異音の正体。食事に集中している様子のヴァンパイアが、耳聡く扉の開かれた音に反応し、ぴたりと異音が止まる。少女の首筋から牙を引き抜くと、ぷちゅりと小さな水音が鳴った。それと同時に、ヴァンパイアの首に両腕を回していた少女の全身が弛緩し、ドサリと音を立ててベッドに倒れ込んだようで。「…………ドロシー…?」まるでルージュのように、鮮血で真っ赤に染まった唇はそのままに、ゆっくりと扉の方へ首を向ける。部屋はとても薄暗かったが、ヴァンパイアは夜目が効く。唖然とした様子で、扉の向こうにいる貴女の名を問い掛けるように呼んで)
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