語り部 2018-09-08 13:28:04 |
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>Isabella
……ふむ。俺が余計な心配を抱くまでもなかったようだな。……俺達には、病も怪我も、死という概念も存在しない。故に誤解されがちなのだが、痛みを感じないというわけではない。稀に、ごく稀にだが、――自分では触れない場所が、ひどく痛むことがある。
(魔女でも人間と同じように病に苦しむことがあるとは意外だった。だがよくよく考えてみれば、魔女の素体は人のようにも思える。否、種族としての誕生秘話など、一介の死神である自分がいくら考察したところで真実に辿り着けるわけもない。ぐるぐると脳内で続いていた一人相撲に決着をつけ、こくりと頷く。人間と彼女の決定的な違いは、呪文一つで病を治せることだ。死に誘うことはできても回復や再生についてはからっきしの自分が、彼女の体調を案じる事など烏滸がましかったのだと、被り物の奥で微かに苦笑した。同じ問いを返されれば、記憶を辿るために数秒間沈黙する。死神には、実体はあるがそれは肉体とは少し違う。ウイルスの類に侵されることなどなければ、刃物で切り付けられても黒い靄が少々飛び散るだけで痛くも痒くもない。だけれど、と弁解するようにすぅっと一呼吸置く。ゆったりと片腕を動かして自身の左胸あたりに手を添える、それと同時に上腕のリングがしゃなりと小さな音を奏でた。鼓動も血脈も生み出さない冷たいそれが、不思議なことに痛みを発することがあるのだ、と。まるで秘密を暴露した時のように、吐息を漏らしながら自嘲気味に笑った。「……魔女、いや失礼、イザベラ。君の魔法は万能か?」ふと問いかけたその内容は、我ながら他力本願すぎて失笑してしまうほど。この館の住人に惜しみなく魔力を分け与えている彼女に対して、浅ましくも助けを乞おうなんて恥を知るべきだろう。だが、それほど馬鹿な言動に死神を至らせるほど、手の施しようのない心の痛みは灼けるように苦しく、凍れるほどに悲しいもので。)
(/大変お待たせして申し訳ございません。仕事の方がひと段落いたしましたので戻って参りました。もしまだいらっしゃいましたら、ゆったりと絡んで頂ければとても幸せです。)
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