北風 2018-08-14 22:50:50 |
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《第四部分》
次に僕が目覚めたのは、病院のベッドの上だった。
と言っても、別に気を失う程の衝撃があったわけでは無い。
ただ単に僕が落下中に恐怖で気絶しただけの話だ。
あの時僕は運良く植え込みの上に落下し、四階の高さから落ちたというのに骨には異常が無かったらしい。
死さえ覚悟していたというのに、僕は数日間の検査入院を経てあっさり家に帰された。
「全く……あんた、母さんがどんだけ心配したと思ってるの!」
「ご、ごめん」
家へと帰る道すがら。
病院に迎えに来てくれた母さんは、助手席に座る僕をジト目で見遣った。
「もういっそ二か月くらい入院すれば良かったのよ」
「酷くない!?」
「だって校舎から落ちたなんて聞いたら、普通良くてもそれくらいだと思うじゃない。それが何? たった三日の入院で、しかも何の異常も無しなんて。あんたタフすぎない?」
「喜ばしいことじゃん一人息子が健康なのは! なんで嫌そうに言うんだよ!?」
僕が必死に反論しても、母さんは楽しそうにんふふと笑うだけ。
息子をからかって遊ぶのもいい加減にして欲しい……。
僕が溜め息を吐いていると、母さんは「あ、ところで」と、声の調子を変えた。
「あんたまだ思い出せないの? なんであそこから落ちたか」
「あ……えっと、そ、そう。実はそうなんだ」
「ふーん……ま、脳も正常だったし、思い出すのを待つしかないね」
「う、うん……」
僕は病院でも「何故落ちたか思い出せない」と言って通した。
一時は自殺未遂も疑われたが、授業中にロッカーに行く振りをして自殺を実行するというのも、まあ有り得なくは無いだろうがおかしな話だ。
結局は有耶無耶のまま。
警察にも「思い出したら教えて欲しい」と言われた。
無論突き落とされた可能性も考慮したらしく、学校に聞き込みにいった刑事もいたと聞いたが、僕が特にいじめられっこでも無かったと判明すると、すぐに捜査は打ち切られた。
警察もそこまで暇では無いのだろう。
だが、それで良い。
もし本格的に捜査でもされて犯人が突き止められたら……
僕は、困るのだ。
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