北風 2018-08-14 22:50:50 |
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《第一部分》
「……っく……ふっ……ぐぅ……や、やばい……」
足に纏わりつく浮遊感。
疲れで震え始めてきた両腕。
恐怖と焦りで止まらない冷や汗。
僕は今、校舎の四階、自教室前の廊下に設置された窓から、宙吊り状態となっていた。
「だ、だれか……! 誰か、助けて……!」
全力で助けを呼んだつもりだったが、怖くて声帯が縮こまっているからか、それとも普段からあまり発声しないからか、僕の口から漏れ出たのは情けない震え声だった。
少しでも手が滑れば真っ逆さま。
この一触即発の状況に陥ってから、体感時間で既に五分が経とうとしていた。
「ぐ……もう少し……もう少し待てば……」
窓のレールを掴む手に力を込め直し、僕は深呼吸を繰り返す。
∇
なぜこんなことになってしまったのか。
一般人の中の一般人、帰宅部のエースたるこの僕、青山がなぜこのようなミッションインポッシブル紛いのアクションをこなす羽目になったのか。
もちろん、自ら進んで窓から身を乗り出したわけではない。
木から降りられなくなっている仔猫を助けに赴いたとか、そういったヒロイックな理由でもあるはずがない。
事の発端は、約十分前。
二時間目の現代文の授業開始直後に、僕は現代文のノートが見当たらないことに気が付いた。
家に持ち帰った記憶は無いが、机の中にも無い。
となれば、必然的にあるのはロッカーだ。
手を上げて先生に許可を取り、僕は廊下に出た。
だが、いくら漁ってもノートは見当たらない。
二分間ほど探したところで、僕は諦めて教室に戻ろうとロッカーを閉めた。
その時。
不意に開いていた窓から風が吹き込み、僕は何の気なしに振り向いた。
と、そこで。
目に入ってしまったのだ、窓から覗く木に引っ掛けられている、自分のノートを。
!?誰がこんなことを!?
え?いじめ?
誰かに恨まれるようなことしたっけ!?
様々な憶測が脳内を飛び交ったが、いつまでもうだうだしていては始まらない。
傷つくなぁ……とため息を吐き、僕は窓に近づいて外に手を伸ばした。
意外と遠いな、と思って窓枠に手を付き、少し前傾姿勢になったとき、
誰かに思い切り背中を押されたのだ。
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