水海 2018-08-14 18:09:38 |
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(鼻の奥まで染み込むような畳独特の薫りに意識呼び起こされ緩やかに双眸開かせると、ぼんやりとした焦点で捉えたのは畳の縁。先程までの息苦しさはなく寧ろ普通に呼吸できることに安堵しながら、よく働かない頭で自身に起こったことを思い返してみれば走馬灯の様に鮮明な映像が駆け巡り。意識を手放す前に己の体が何かに包み込まれる様な感覚が薄らと肌に残っているが、あれは何だったのか…というところで次第に意識がはっきりしてくる。一体此処は何処なのか、水の中に引き込まれたはずの我が身が今こうして此処にあるのは何故なのか、そもそも生きているのか…様々な疑問が頭をもたげてくる。一旦思考を落ち着かせようと薄く睫毛を伏せ一呼吸置き。先ずは現状把握優先と瞼開かせるとゆるりと左右に視線走らせて、ある一点に着地する。そこには片膝を立てて座る男性の姿があり。その姿は、全ての美辞麗句を並べようとも形容し難い美しさ、いちいち取り立てて言うなら美文辞典が優に一冊編まれるほどになるだろう。相手の何か思い悩んでいる風のその表情がまた秀麗極まりなく…兎に角、その浮世離れした相貌に刹那魅入ってしまったのであるが、そこに自分以外に人がいるとは想定外、ましてや今までの様子を全て見られていたのかと思うと羞恥が込み上げ身の置き場所もないほどに感じられ…咄嗟に反対の方へと体ごと向けるが既に目を覚ました事は気付かれてしまったであろうから、そのままゆっくり身を起こす。そのことで視界が広がり、部屋の一部の様子が目に映る。その様子から此処が如何に立派な邸であるか想像容易く。背筋を伸ばし膝を揃えて正座の姿勢を取れば向かい合うような形となり。相手と一定の距離はあるものの羞恥心が残る故に目は合わせ難く視線はやや下向き加減に留め、先ずは相手の反応を待ち。)
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