とある公安所属の女 2018-07-20 22:31:27 |
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受話器を取って耳に当てれば流れ出すもたついた男の声に、思わず舌打ちをしそうになる。ただでさえ少ない彼女と話していられる時間を邪魔されたような気しかしない。この電話さえなければ、早く帰りたがっている彼女に電話をとらせることもなかっただろう。
徹夜明けの頭にはそんな幼稚な考えしか浮かばず、しかも男は上の人間でどうにも説明が下手らしかった。もそもそと喋り続ける男の声に耳を傾け話をまとめてみれば、どうやら1週間後に男女の重要な犯人達が近々取引をするらしいからそれを尾行してくれとのことだった。
苛々としながら聞いていた降谷の頭に子供っぽい案が浮かんでしまったのはその時だった。彼らは男女であることを利用して、今までもデートスポットばかりで取引をしている。ならば此方もカップルを装った方が尾行しやすいのではないか。
普段ならば公私混同だと理性が抑えていただろうが、残念ながら今それは降谷の頭の中に存在していなかった。
「……ええ、では僕と橘を中心に尾行します」
ついそう答えてしまってから、頭の中でこれは仕事がしやすいからに過ぎないと言い訳した。受話器を置きながら、話が聞こえていたであろう彼女を振り返りつつ、別に彼女とデートスポットに出掛けたいからではないと自分に言い聞かせていた。
無いなら、と無理に勧めない辺りが彼らしい、と垂れた白い髪の影で微笑む。こちらがいくら断っても無理矢理外国で買った高い服やらアクセサリーやらを置いていってくれるベルモットも勿論嬉しいが、こうしてみればジンに聞かれるのが一番気軽でいられる。彼自身もあまりものに頓着しないようだからだろうか。
「……ありがと」
笑われるだろうとは思っていたがこんなに声を上げて豪快に笑うとは予測していなかったので、一切驚かなかったといえば嘘になる。けれどもその後についでのように呟かれたおそらく彼なりの了承であろう言葉に、ふっと此方も笑い礼を言った。
ちらりとソファーに座る彼に目を向けると、僅かに口角が上がっているような気がした。そうしてゆったりとソファーにもたれかかり長い銀の髪を流している様子はまるで絵のように美しいと思う。そのままでは魅入ってしまいそうで、無理に手元の銃に視線を戻した。
「……はい、これでいいわ……。でも長く使いたいなら、使った後放って置かないで頻繁に持ってきて。それから、ウォッカの銃がそろそろ整備が必要だと思うから、持ってくるように伝えておいてくれる?」
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